お金を貸すくらいなら“あげてしまう”のがベストな理由【佐藤優】

佐藤優

「利害を超えた関係」といえば聞こえはいいですが、実際は家族であれ親しい友人であれ、必ずといっていいほどお金が人間関係に大きな影響を与えています。お金の貸し借りが原因となって関係を損なってしまわないように、その扱いは慎重になる必要があります。元外交官で作家の佐藤優さんに、具体的な方法を教えてもらいました。

人間関係はお金に換算できる

ロシアの日本大使館に勤務していたころ、ロシア人100人以上に借金を頼まれ、お金を貸したことがありました。返してくれたのは3人だけでしたが、それで人間不信に陥ったかといえばそんなことはありません。最初から返ってくることなど期待していませんでした。

ソ連崩壊前後の社会が混乱した時期で、みんな食いつなぐことに必死です。当時の彼らの月給は日本円で1000円、2000円程度。その支払いすら滞り、月の生活費、家族を養う金がありません。そんな額なら、あげてしまったほうが気が楽なのです。ただ、そうなるとその後はお互いつき合いづらくなってしまいます。

人間関係とお金は非常に密接に結びついています。特に成人して社会に出たら、お金の絡まない関係などまずありません。「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉がありますが、大人の関係で少しもお金が絡まないことなど、まずないと言っていいでしょう。

たとえば友人と遊ぶにしても、家族とどこかに出かけるにしても、お茶を一緒に飲むだけでもお金がかかります。まっとうな関係を築くには、どうしてもお金が必要なのです。

家族、夫婦という一番近い関係で考えてみましょう。愛情が基本だと思われるような関係でも、突き詰めて考えればお金の問題を無視することはできません。家族の関係は、お互いが食っていけるか、生活できるかという現実のうえに成り立っているのです。どんなに仲がいい夫婦でも、お金がなければぎくしゃくしてしまうでしょう。

夫が会社をクビになって収入がなくなった、体をこわして働けなくなったなどの状況だけではありません。

たとえば旅行の計画を立てる際、せっかくなら少し遠くに行きたい、いいホテルに泊まりたいとなれば、それだけお金が必要になる。そのために奥さんが夫の毎月の小遣いを減らそうとしたら、それだけでもめ事になり得ます。

会社の上司や部下も結局はお金絡み。自分の上司がどれだけ仕事ができて、会社にお金をもたらしているかという点に、部署の存在意義や存亡がかかっているわけです。上司のお金を稼ぐ力が部署や派閥の力関係になるし、部下である自分に跳ね返ってきます。

また上司である自分から部下を見たときは、どれだけ仕事をして利益を上げられる部下なのかで自分の成績が決まります。

あの上司は仕事ができるとかダメだとか、あの部下は優秀だとかそうでないとか判断するとき、意識するしないにかかわらず、お金という物差しで相手を測っているのです。

実際、仕事ができる人の中には、上司や部下、取引先などビジネスにおける人間関係をシビアにお金で換算する目がある人が多いです。経営的な視点があり、マネジメント能力の高い人に多いですが、どこかにその視点がなければ、ビジネスとしていい仕事ができないこともたしかです。

金銭感覚のズレが友情をこわす

お金で測れるような人間関係ばかりではあまりにも虚しい。だからこそ、友人関係は何物にも代えがたい大事なものだという人は多いでしょう。「空気と光と友人の愛。これだけ残っていれば、気を落とすことはない」とゲーテも語っている通り、友人こそは人生の宝だと言っていいものです。

私が512日間の拘置所生活を余儀なくされていたとき、最後まで支援してくれたのが大学時代からの親友たち。その心強さは今でも忘れないし、それがあったからこそ今の自分があるのです。

ただし、その友人関係でさえお金で大きく変わり得るという現実もあります。たとえば、古くからの友だちグループの一人が事業で成功するなどして、突然大金持ちになったとします。周りの人は、これまでのようにその友人と気の置けない関係を続けられるでしょうか。

多くの場合、お金持ちになると生活が変わります。それまで居酒屋でワイワイやっていたのが、ワンランク上の店で飲むようになる。お金によって趣味や嗜好が変わってくるし、そうなればつき合う友だちも変わります。

逆もあり得ます。それまで仲のよかった仲間の一人がリストラにあい、収入がなくなってしまった。すると、それまでのように気軽に食事や遊びに誘えなくなります。無理な出費を強いてしまうのではないか、その話題に触れてはいけないのではないかと、気を遣ってしまうのです。そして、自然に連絡も滞りがちになっていく……。

どんなに絆の強い友情に見えても、大人同士のつき合いではどうしてもお金が絡んでくる。この現実をしっかり認識することが大前提です。

少額の借金ならあげるつもりで

友人関係でお金の貸し借りは基本的にタブーだといわれますが、私もそれには同感です。実際、本当に大切な友人からお金を借りようとは思わないでしょう。それでも借金を頼まれるということは、友人としてそれほど価値がないと思われているか、よほど切羽詰まった状況にあるかのどちらかです。

別の借金の返済のため、生活費そのものがない……。理由はさまざまですが、当然ながら返済のメドは立っていないはずです。

そんなとき私ならどうするか。たとえば10万円くらいの借金の申し出なら、「それは無理だけど、1万円なら返さなくていいよ」とあげてしまいます。下手に返してもらおうとすれば返済が滞って腹が立ったり、裏切られたと感じることになるでしょう。こちらの精神衛生上よくありません。

これが100万円以上の申し出だったとしたらどうするか。その場合は生活費ではありません。借金の返済か、あるいは特殊な事情でまとまったお金が必要なのでしょう。いずれにせよ、事態はかなり深刻です。

こういうときは、もし貸せるのであればビジネスライクに徹すること。まず、公証人役場や弁護士を通して、しっかり貸借証書をつくります。そして、公定歩合程度の利子をつけます。今なら0.3%くらいでしょうか。それから、返済してもらえない場合を想定して担保をとるのもいいでしょう。いざとなったら、何かを差し押さえるくらいの本気度と緊張感で臨むべきです。

どんなに親しい友人でも、逆に親しい間柄であるほど、100万円を超えるお金の貸し借りはしっかりした手続きを踏んだうえでやることをおすすめします。あとになって、言った言わないでもめることもありません。

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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