会社にしがみついて「終わった人」にならないために“FA宣言”を

2020年4月施行の「改正高年齢者雇用安定法」により、定年の廃止や延長など“生涯現役”に向けた環境が整いつつある昨今。「働ける間は働け」というメッセージが隠されているようでもあります。そのようななか、「定年」が視野に入ってきた会社員は、どんな心構えでいればいいのでしょうか。政治・教育ジャーナリストの清水克彦氏にお話を伺いました。

“終わった人”扱いされないための選択肢

あなたはどんなときに「幸せ」を実感するでしょうか。

家族と一緒にいるとき、多くの収入を得たとき、昇進の辞令を受けたとき、誰かの役に立ったと感じたとき、などさまざまな場面で感じることと思います。

大きく言えば、私は、「これまで頑張ってきた自分」と「あるべき自分の姿」、この2つの調和がうまく図られているかどうかが、幸せな生き方のカギになるように思います。

「出世レースで後輩に後れをとった」
「役職定年で、肩書が『課長』から『課長待遇』になり、事実上、ラインから外れた」

このような災難に出くわしたときは、さきほど述べた2つの調和が図れなくなり、落胆してしまうことになるかもしれません。

出世する人もしない人も、ある年齢までは同じペースです。

ところが、出世する人は、40代半ばまでは課長だったのが、部長→局長→役員と、50代半ばまでの間に駆け足で昇進していくのが特徴です。一方、実績はそれほど変わらないのに、その波に乗れなかった人は、まだ体力もあり気力も衰えていない年代で昇進が止まり、出向させられたりします。

そうでなくとも役職定年という壁が待ち構えています。

主な企業の50代の処遇(筆者調べ)

・自動車大手N社 =50歳で役職定年。給与は大幅減。
・総合電機大手S社 =50代後半で部長クラスの役職定年。給与は2割から3割減。
・メガバンクM社 =52歳で出向か転職。
・損害保険大手T社 =55歳になると年収で25%程度減。
・生命保険大手D社 =57歳前後で役職定年。年収は3割減。
・公共放送事業体N =人事制度改革を行い、管理職に役職定年を設け、早期退職も促す。
・海運大手S社 =部長になれなければ国内外の関連会社に出向。
・住宅大手D社 =50歳で役職定年、多くは関連会社に移る。
・IT大手N社 =50代で上司から子会社への出向を求められることも。

その先にもハードルがあります。

2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法(70歳就業確保法)では、65歳から70歳までの働き方として5つのパターンを示しています。

改正高年齢者雇用安定法で示された働き方のパターン(厚生労働省HPより)

 ① 70歳までの定年引き上げ

 ② 定年制の廃止

 ③ 70歳までの再雇用

 ④ 会社と業務委託契約を結ぶ

 ⑤ 会社が行う社会貢献活動への参加

これらいずれかによる就業機会の確保を、会社と労働組合で決めることになりましたが、①から③なら、多少、給料は減額されても、会社に残ることはできます。

しかし、④と⑤の場合はそうはいきません。

どんなに実績や人望があっても、めぐり合わせによって出世が叶わず、人事制度のルールによって「降ろされる」リスクは、役職定年だけでなく、その先にもあるのです。しがみつくだけでは先細りです。

周りから「終わった人」扱いされないためにも、そして元気であれば、70歳まで自分らしく活動していくためにも、今から準備をしておいて損はありません。

自分から降りて第二ステージの準備をする、役職定年や再雇用制度を受け入れる、起業する、フリーランスになる、仕事はほどほどに趣味や地域活動に生きる……いろいろな選択肢がありますから、自分には何が合うか考えてみてください。

“死んだふり”をする

たとえば、職場で死んだふりをするのも、ひとつの生き方です。

横溝正史さんの推理小説に登場する私立探偵、「金田一耕助」は、ボサボサ髪で風采が上がらないタイプなのに、実は頭脳明晰。

他のドラマや映画でも、職場では冴えないオヤジやオバサンなのに、本当の顔はすごい〇〇……といった設定がよくありますね。

これらの姿は、優等生社員から降りるヒントになります。

出世レースで敗れ要職から外された、いつまでも競争するのが嫌で自分から降りた、もしくは役職定年や定年というルールによってヒラ社員扱いや嘱託扱いになった、これらいずれの場合でも、職場でコツコツ働くというのが優等生社員かもしれません。

しかし、どんな人でも大なり小なり、これまでの地位から降りると、それまでの自分との折り合いのつけ方に苦労します。

そうならないための処方箋が死んだふりなのです。

そのためには、何でも構いませんから、これからの自分軸は見つけておくべきでしょう。

「僕は資格を取って起業の準備をする」
「私は語学を学び直して海外で生活する」

といった類のものです。

私は、執筆であれ、講演であれ、メッセージの発信者であり続ける、そして大学で次代を担う若者に教えるというのが自分軸です。

それが大まかにでも見えてくれば、その時点で競争心というものに始末をつけて山から下り、職場で死んだふりができるようになります。

「鈴木さん、課長じゃなくなってからパッとしなくなったな」
「田中さん、役職定年を迎えたせいか、覇気がなくなったわね」

すっかり「終わった人」扱いをされ、こんな声が耳に入ってきたとしても、やりたいことが見えて、少しでも実行に移せていれば、平然とスルーすることができます。

職場で死んだふりをする方法

・自分に任された仕事はきちんとこなす=会社員としての責務は果たす
・得意分野で勝負する=苦手分野はピンチを招くので率先して引き受けたりしない。
・承認を求めない=承認されたとしても再浮上の目がないなら、SNSのような「いいね!」を求めない。第一、周りの評価を気にする年齢ではない。
・自分の時間を天引きする=会社にも家族にも拘束されない自分だけの時間を最初に確保しておく。自分の時間が減るような残業や宴席は避ける。

私の職場の同僚らに言わせれば、「そうは見えない」と言われるかもしれませんが、私も会社では死んだふりをしています。

専門分野以外は手を出さない、凡庸な上司や伸び悩む後輩にイライラしない、仕事は七割の力でこなし三割の力は温存して帰宅する、このあたりがコツです。

会社にいながら「FA宣言」してみる

あるいは、優等生社員をやめてFA(フリーエージェント)宣言してみる手もあります。

FAと言えば、プロ野球が有名ですね。プロ野球の場合、規定の年数が経過し資格を満たした選手が他の球団に評価してもらい、自分を高く買ってくれる球団と契約するというものですが、本来、FAとは組織に縛られない働き方を指します。

プロ野球なら契約するのは1球団だけですが、私たちの場合は契約先がひとつとは限りません。何歳からでもFAできる権利を持っていますし、宣言するのは、転職先を見つけてから事後報告でよい点もプロ野球選手より恵まれています。

会社員の場合、これから老後までの選択肢として、雇用延長という手がありますが、ウィズコロナ、アフターコロナの不安定な時代、ひとつの会社に依存するのはリスクです。

かけがえのない人生の手綱を、最後まで会社に預けてしまうと閑職に回される、会社の都合でリストラされる、長く担当してきた仕事が縮小される、会社自体が他社に吸収合併されるといった憂き目を見ないとも限りません。

そこでFA宣言するのです。ここでは会社にいながらできる方法を列記します。

FA宣言の種類

SNSやブログ、口コミで宣言する
私が実際に採っている方法。「時間ができたこと」「これからやってみたいこと」「これまでの実績からできること」を明示する。そうすると外部からさまざまな形のオファーが舞い込むようになる。ある程度、何かの分野で実績がある人向き。

エグゼクティブサーチや顧問募集サイト、講演講師募集サイトに登録する
職場にばれることなく水面下で動けるのがメリット。ただ、手に職がある人は別だが、私が試しにやってみた限りでは、求人はあったとしても、自分が思ったほどの年収(客観的評価)にはならない。
実務家として大学教員を目指すなら、大学教員公募サイトをチェックして応募するのが近道だが、「修士」以上の学位は必要。

正社員から業務委託に切り替える
高齢者雇用安定法の改正で、政府は企業側に業務委託契約制度の導入を推奨している。クリエイターやITエンジニアなどスペシャリスト系の業種であれば、「正社員→業務委託」が可能かどうか人事に聞く方法もあり。
タニタやリクルートなどはこの制度を導入している。もし切り替えられれば個人事業主になるので、労働時間は自由。他者からのオファーも引き受けることができる。制度がある会社に勤務している人限定。

自宅をオフィスにして開業する
顧客データの活用、営業戦略の企画立案、地域活性化策の構築、赤字企業の再建、部下のマネジメントなど、これまで培ってきたスキルを活かし、個人コンサルタントとしての仕事を始める。
中国語や韓国語などの語学力、あるいは文章力などがあれば、SNSや口コミで生徒を自宅に集め語学教室を開いたり、大学の総合型選抜入試(旧AO入試)専門塾を作ったりする。自宅を使える人向き。

これらのうち、勤務先に制度がない「業務委託」以外は実行してみました。どれもそれほど難しくなく、コストもあまりかけることなくできます。

「大企業の偉い人ならともかく、中小企業の人間にできるでしょうか?」

講演会ではこんな質問を受けますが、大企業に勤務していた人は会社名が武器になる半面、人間関係が企業内に限られ、工程の一部分しか担当していない人もいます。

その点、中小企業出身者は社外人脈が多く、工程全体に詳しく、何より日本の会社の9割を占める中小企業の気持ちがわかる強みもあります。

FA宣言は誰でもできますので、まずは試しに、会社をやめなくても済む方法でやってみてください。

 

PROFILE
清水克彦

政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。1962年愛媛県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学。
文化放送入社後、政治・外信記者を経て米国留学。帰国後、ニュースキャスター、大学講師、南海放送コメンテーター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は、文化放送報道デスク、京都大学現代政治研究会研究員、学びの未来研究所研究員。政治、生き方、子育てをテーマに執筆や講演活動も続けている。
著書は、ベストセラー『人生、勝負は40歳から!』(SB新書)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)のほか、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『安倍政権の罠』(平凡社新書)、『すごい! 家計の自衛策』(小学館)ほか多数。
公式ホームページ http://k-shimizu.org/

人生、降りた方がいいことがいっぱいある

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