還暦後の学び直しには「大学の教科書」が最適の教材だ【佐藤優】

佐藤優

いまや人生百年時代を迎え、いくつになっても学習し続けることはもはや当たり前になってきた感があります。ただし作家の佐藤優さんによると、還暦からの勉強の方法には、場所選びや題材などについてのちょっとした方法論があるようです。詳しく教えてもらいましょう。

図書館は本来「若者のための場」だと心得る

学習意欲を持ち、学び続けることはその人の人生を豊かにし、また社会全体のためにもなります。自分の得意な分野を深掘りする、あるいは若いころ苦手だった分野や事情があって進めなかった分野の勉強をする。学ぶ目的も、学び方も人それぞれでしょう。まず還暦後に自分が何を、どう学ぶかを明確にすることがポイントです。

ただし学問や教養というものは、目的があるほど身につきやすい。外国で仕事をするために英語を習うのと、単に余った時間で漠然と英語を習うのとでは、身につき方に大きな差が出るのは当然でしょう。

さらに、そこに年齢という条件が加わります。はっきり言えば、還暦を迎えてイチから語学を習っても身につく可能性は限りなく低いと考えますが、何をするかは人それぞれ。勉強すること自体が楽しいのであれば、それだけでも意味はあります。

ただし、街の図書館に行くのには注意が必要です。正直、図書館で漫然と新聞を読んだり、文庫本を読んだりしている高齢者グループというのは、あまり前向きな感じがしません。特にどこも悪くないけど病院に行って時間をつぶしている高齢者と本質的に変わらない。開館と同時に自分の読みたい新聞や座りたい場所を確保するため高齢者同士で揉めるなど、誰も見たくない光景です。

そもそも、書籍は自分でお金を出して買った方が身につきます。人間は現金な存在ですから、お金を出して買うと、しっかりと元をとらなければと思いしっかり読みます。語学などの学習でも教材や受講料に高いお金を払うので、必死になるという部分があります。

なにより自分の書籍なら、読みながらアンダーラインを引いたり自分の考えを自由に書
き込んだりできる。すると理解度が劇的に変わってきます。

図書館とは、まだお金のない若い人がおもに行く場所であり、金銭的に余裕のある高齢
者は、出版文化を支える意味でも書店で書籍を購入してもらえればと思います。

高齢者が図書館に行くのは市販されていない古い文献や新聞のバックナンバーを調べるとき、あるいは一冊数万円するような高価な本を読むときです。

その意味では、近くにある大学の図書館がおすすめです。今は大学の図書館は多くが地域に開かれています。一般の図書館にはない専門書や稀覯本がたくさんある。自分が真剣に勉強したいというテーマがあるなら、大学の図書館こそ活用すべきです。

大学の施設はOB、OGに対して基本的に好意的なので、自分の出身大学ならなおのことおすすめです。そういう施設を効果的に活用しましょう。

余裕があれば自習室やレンタルオフィスを

勉強するのにいいのは自習室です。図書館の読書室は意外にザワザワしていて、集中しにくいことがあります。はっきりした目的のある人なら、お金がかかることがモチベーションにつながります。

最近の自習室はラウンジや個別ボックス、会議室などの施設が組み合わされたものが多い。平日限定の会員であれば、都心でも月額5000円くらいから利用できます。

ただし、金額が安いものはパーティションで仕切られた机が並んでいるだけということもあり、集中しづらいという人もいるでしょう。月額1万5000円から2万円くらいになると、ボックスタイプでより集中できるものがあります。

私は出張で京都に行くことが多いのですが、学生から教えてもらった自習室をよく利用しています。学生の街ということもあり、これが非常に集中できる。

あとは、地域のコミュニティセンターなども勉強するには意外に有効な空間です。図書館よりは人が少なく、利用スペースもけっこう余裕がある。実際に行ってみると学生や社会人などが勉強スペースとして活用しています。

大学の教科書には当時の感情が詰まっている

還暦をすぎて読む本はどんなものがいいか? もちろん、自分が興味のあるものを優先して読むということでいいと思います。そのうえで、豊富な時間を利用して今まで読みそびれてしまっていた本に再チャレンジしてはいかがでしょう。

誰でも、学生時代に挑戦して途中まで読んだものの、いつの間にか挫折した本があるはずです。そんな本に再度挑戦してみる。古典の長編小説などはその最たるものでしょう。

世界的な名著、古典と呼ばれながら、これまで手をつけてこなかった本もたくさんあるはずです。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』、ゲーテの『ファウスト』やユゴーの『レ・ミゼラブル』のような、いわゆる古典中の古典です。

意外なおすすめは大学時代の教科書です。あなたが法学部出身だったら、法学や法律の教科書、商学部なら経済学や会計学などの教科書でしょうか。ご自身の学生時代にどんなテキストを使っていたか、それぞれ思い出してみてください。

そういえばこんな本を使っていた、教科書を買ったということを思い出すだけでも、記憶の訓練になります。昔の教科書もネットで探せば安く購入できる。昔の教科書は、意外にも古本でいまだに流通しているのです。表紙を見ているだけで、自分がかつて大学生だったころの空気や周囲の景色、友人などを思い出すことができます。

その懐かしさ、自分の原点に返る感じがいい。まだ溌剌とした気概に満ちていた若いころの自分を思い出す。徹夜でマージャンしたなとか、海へ行ったなとかスキーに行ったな、なんて学生生活を思い出す。気持ちが若返り、学習意欲が出てくるのです。

教科書を読んでいると、自分は学生時代にあまり勉強しなかったと思っている人でも、意外に多くを覚えていることに気づきます。試験対策で覚えていたとしても、教科書を読み返せば不思議にすぐ理解できて驚くこともあるはずです。

あらためて学問の面白さに目覚め、どんどん深掘りしていくと、大学時代は苦痛だった勉強も面白く感じられるかもしれません。

もし大学時代のノートが残っていたら、これもよく見てみましょう。当時感じていた以上に、自分はこんなに難しいことを勉強していたんだと気づくかもしれません。また、卒論が残っていたら読み直してみる。意外にいい視点を持っている、しっかりした文章を書いていた、今であればこう書くのに、などの発見があります。

参考文献が書かれているはずなので、それをもう一度読んでみる。さらに自分の卒論のいい点、悪い点を分析して、続編に挑戦してみるなんていうのも面白いかもしれません。

それをきっかけに、何かテーマを絞って5年ほど勉強を続けられれば、もはやその分野のちょっとした専門家です。それをきっかけにして勉強会や研究会などに入り、同好の士と出会ってさらに刺激を受けることができる。すると勉強の連鎖、教養の連鎖が生まれて、世界がどんどん広がっていきます。これは、還暦後の勉強の醍醐味でしょう。

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

還暦からの人生戦略 (青春新書インテリジェンス)

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  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2021/06/02
  • メディア: 新書