大事故から立ち直った元教員が語る「心の自家発電」の重要性とは

スキーの転倒事故で首の骨を折る大事故から、教員として奇跡の復活を遂げた腰塚勇人さん。厳しい現実を前に、心が折れてしまったことも。そうしたみずからの体験を「命の授業」「気もちの授業」と呼ばれる講演会で伝え、全国各地で感動を巻き起こしています。つい頑張りすぎてしまう、心がさまよってしまっている、自分を見失いがち…そんな人へのメッセージをご紹介します。

「気もちの湖」穏やかですか?

学校で「気もちの授業」をするときに、みんなそれぞれ自分の中に「気もちの湖」を持ってるんだよ、という話をします。そしてその気もちの湖の中で手漕てこぎボートを漕いでいるんです。

手漕ぎボートを漕いで何をしてるかというと、今日自分がやらなきゃいけないこと、提出しなきゃいけないもの、など目標の到達に向かってボートを漕いで努力をしています。時には競争相手が現れたり、逆風までも起こります。

そこで皆さんに考えてほしいことです。この湖がどんな状態のときに一番早く自分が行きたい場所に到達できると思いますか?気もちの湖が、どんな状態で漕いだらボートが一番よく前に進みますか?

「後ろから追い風が吹いているとき」「○○○○なとき」……いろんな意見があると思いますが、私の答えは湖が穏やかなときです。

スキーで大怪我をして首から下が全く動かないときの私の気もちの湖は、荒れに荒れまくってました。どうしていいかも分からなかったですし、こんな俺が生きてちゃいけない……って心のどこかで思っていました。苦しくて苦しくて、このときには気もちの湖を自分で穏やかにすることはできませんでした。

そして最後に、れました。人生終わった…死にたい……って。

イライラしたり、カリカリしたり、ムカついたり、悲しくなったり、ねたんだり、焦ったり、絶望したり、あきらめたり……誰の人生にもこういうときはあります。そんなとき、気もちの湖はどうなっていますか。

私は、自分の気もちの状態をチェックすることを日々とても大事にしています。今、自分の気もちの湖どうなってる?荒れてる?それとも穏やか?自分で自分の状態をチェックしています。

でも、人は、自分の荒れたり、涸れかかっている気もちを見ることもせず、まわりの人や環境のせいにして、あたってしまいがちです。なぜ分かってくれないんだ、と感情をぶつけてしまったり、外側の何かを変えようとする人がすごく多いんです。

ほんとうは誰かに分かってほしい!気づいてほしいんです。良い悪いではなく、今そういう気もちなんだよネ……って。だからこそ、まずは自分で自分の気もちに気づいてあげてほしいのです。

○○の暴走は言動の暴走につながる

ここで問題です。

○○の暴走は言動の暴走につながる

この○○にはどんな言葉が入るか、わかりますか?

ちょっと考えてみてください。私が先輩から教わった言葉です。そして教師のときも今も、自分が大人として親として、これは忘れてはいけないと思っている言葉です。

答えは、「感情の暴走は言動の暴走につながる」です。自分の気もち、自分の心はどうですか?

皆さんの感情はどうですか? 今日の朝どうでしたか?

朝起きて、今日これからやることは、これとこれとこれで……と、行動に意識を向けるけど、自分の気もちには意識がいかないのが普通です。

今こんな気もちでいるな。こんな感情がいま自分の中にあるな。って、意識を一回自分の気もちに向けてみる。感情に無頓着だと、感情にふりまわされて、感情、気もちのままに爆発暴走し始めます。

そうすると、言動も暴走し始めます。暴言を吐いて暴れたり、手が出てしまったり、自分でももう止められなくなってしまいます。だからこそ、周りの人にも自分にも「感情の暴走は言動の暴走につながる」ということを忘れないでほしいのです。

もちろん感情は暴走してもしかたがない。自分の内面で日常茶飯事に起きていて、ある意味、自己防衛のひとつですから。私だって、感情がムカつくし、腹立つし、イライラするし、怒るし、暴走しそうになります。

そのときに、「ああ、今怒ってる」「ムカムカしてるぞ」「やばい、やばい」って、現状を否定せずに「いま、そこにある事実」として見られるかどうか。感情は感情であって、あなた自身ではないから。いいも悪いもありません。

いい悪いではなく、「いま、こういう気もちなんだな」と、事実としてまず気づいて受け止めることが重要です。

すると、この状況で何かやってもうまくいかないぞ、いい結果はないなという思考回路が働きだします。だったら、その感情を、どうすれば穏やかになるかなと。その方法を考えはじめれば、リカバリーできるんです。

私たちのまわりには、楽しくさせてくれたり、笑顔に穏やかにしてくれる人がいる半面、傷つけ、苦しめる、そんな人や環境もいっぱいあります。そういう中で日々、私たちは生きています。だからこそ自分の気もちを自分で守ることが大切ではないでしょうか。

「心の自家発電」のススメ

つらいとき、苦しいとき、そばに誰かがいてくれることは心強いです。でも、みんな忙しくて、自分のことでいっぱいいっぱいです。ましてやこのコロナ禍なので、思いやりが大事と頭では分かっていても、みんな余裕がありません。

もうひとつ言うと、仲間がいればなんでも万々歳ではなく、自分を他人と比較するという落とし穴にハマる場合もあります。比較をして相手より下だと思うと、自分は駄目だとなってしまうこともある。

悪く思われたくないから、相手が欲しい答えを言ったり、相手の顔色や動きをうかがったりすることもある。だから、自分で自分をコントロールできたほうが絶対にラクなんです。

10年前の東日本大震災のボランティアに行ったときに、小学校の掃除を校長先生と一緒にしました。校長先生が掃除の後にこんなことをおっしゃいました。

津波以前は、子どもたちに生きる力を付けさせたい、何か苦しいことがあっても乗り越えられる力を付けさせたいと思って、先生たちとも協力してやってきたつもりだけど、自分が伝えたかった「生きる力」って何なんだろうと考えさせられてしまう……と。

その校長先生が、「つらいときには頼れる人の力も大事だけれど、心を自家発電できる力が必要。どんなことがあっても自分の力で自分を元気にできる、自家発電できる子どもをこれから育てたいと思っています」とおっしゃっていました。

心の自家発電。今の時代、誰にでも必要なことではないでしょうか。

 

PROFILE
腰塚勇人

1965年、神奈川県生まれ。元・中学校体育教師。元・養護学校教師。大学卒業後、「天職」と思えた中学校の体育教師になる。学級担任。バスケット部顧問として「熱血指導」の日々を送る。2002年3月1日、スキーでの転倒で首の骨を折り、奇跡的に命はとりとめたものの、首から下が全く動かなくなる。当時、医師から「一生、寝たきりか、よくて車いす」の宣告を受け、絶望で自殺未遂をする。その後、妻、両親、主治医、看護師、生徒たち、職場の同僚などの応援と励ましを受け、奇跡的な回復力を発揮。身体に障がいを残しながらも、現場に復帰する。その体験を「命の授業」としてムービー(動画)として公開したところ、30万人を超える人々の目にふれることとなる。2010年「命の授業」の活動に専念するため、教員を辞職。現在まで、学校、企業、自治体などをはじめとする全国各地での講演会は大盛況で、まもなく2000回を迎えようとしている。著書に『命の授業』(ダイヤモンド社)や『感謝の授業』(PHP)。

気もちの授業

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