日本の子供の自己肯定感は世界最低…なぜ自分を認められないのか

親はどうして子どもを叱りすぎてしまったり、欠点を指摘したりしがちです。でもそれは、「子育てに自信がない」「不安でつらい」という、4人に1人はいるといわれる育児困難のせいかもしれません。30年以上にわたり親子を見てきた小児精神科医の古荘純一先生によると、実はそこには、親の「自己肯定感」がかかわっているそうです。親子の自己肯定感を高めて、子育てをラクにするヒントをお伝えします。

「自己肯定感」と「自尊心」はどう違う?

最近、「自己肯定感」という言葉をよく聞くようになりました。育児に困難を抱える親は、「自己肯定感」の低さが深く関わっているのではないかと私は考えています。つまり、自分に対して否定的な感情が強く、肯定的な感情が持てないということです。

しかし、その言葉の使い方も曖昧ですので、最初に、これから述べる「自己肯定感」という言葉の捉え方についてお話ししましょう。

自分のことを自分で捉えるという概念には、心理学的には「セルフ・エスティーム」という言葉を当てるのが一般的です。その概念は「自己に対する肯定的、または否定的な態度」です。

すなわち、セルフ・エスティームという概念は、「自信を持ち、ゆったり構えること」や「自分に満足する」という、いわゆるポジティブな思考を指すだけでなく、ネガティブな側面も包括した概念に近いと思われます。セルフ・エスティームという単語は、プラスの価値とマイナスの価値を中立的かつ客観的に表す単語、ということもできます。

セルフ・エスティームは、日本語では「自尊心」「自負心」「自己評価」「自己尊重」「自己価値」「自己肯定感」など、さまざまな用語があります。日本語の「自尊」にも中立的な意味合いがあり、一般に使用するときは自尊感情より「自尊心」という言葉が多く用いられるようです。

一方、「自己肯定感」という表現は、自分自身を肯定するということに重点が置かれています。広義には自尊感情とはほぼ同義で、否定的な側面をそのまま肯定的に受け入れるという意味で用いられていることもあります。

本来、セルフ・エスティームは、高すぎても低すぎてもよくない、というイメージがあります。よい面、悪い面を表す言葉として捉えているからです。

しかし、日本の場合には高すぎることは例外であり、自尊感情については「高めよう」という議論が一般的です。また、「自尊感情」という日本語は、そのほかの訳語と異なり、少し頑固な人格像を意味する言葉としても捉えられ、必ずしも日本語として受け入れやすいよい響きだけを持つわけではないようです。

本記事では、基本的には「自己肯定感」という言葉を使っていきます。私たちの研究結果を引用する部分のみ「自尊感情」という言葉を使用していきます。

10歳から「自尊感情」が急低下する

私たちが研究を進めるうちに、日本の子どものQOL(quality of life/生活の質)に大きく関係する因子が自尊感情ということがわかってきました。

小・中学生を対象にして、学校でQOLについての調査を行いました。学校に通う子どもたちを対象とした調査ですので、在籍する学年別に調査結果を公表しています。

その結果、小学3~4年生(10歳)頃から自尊感情が低下し、中学生の年齢にかけて低下し続けていることがわかりました。

「日本とオランダを比較した自尊感情の年齢変化」

私たちはオランダの子どもと比較をしました。2007年のユニセフの子どもを対象とした幸福度調査で「孤独を感じる」と答えた子どもの割合が最少だったのがオランダだったためです。オランダの子どもでも10歳頃に自尊感情は低下する傾向はあるものの、それほど明確ではなく、思春期以降はあまり低くならないという結果でした。

ほかの国の調査結果をいくつか見ても、学年が上がるごとに自尊感情が低下するのは各国で共通ですが、これほど急激に低下している国はないようです。QOL全体は学年が上がるにつれてゆるやかに低下していく傾向にありますが、日本の場合、自尊感情が10歳頃から急速に低下していくのが目立ちました。

この調査結果を発表したのが2009年のことです。それから約10年が経過し、子どもを取り巻く環境は大きく変化しました。何といっても「ケイタイ」の普及が大きいと思います。文科省も、初等中等教育における学習指導でのICT(情報通信技術)活用を推進しています。

一方で、いじめの認知件数や虐待相談対応件数、発達障害の可能性がある子どもの増加などがあります。はたして子ども自身は、日々の生活に満足しているのでしょうか? 単純な比較はできませんが、調査を始めた頃と、最近の調査を比較する必要があるのではないかと考えています。

「できないのは自分が悪い」と思いがち

自分を肯定的に捉える、あるいはありのままの自分を受け入れるということは、さまざまな困難を乗り越えて充実した人生を送るためだけでなく、他人と協調していくためにも必要なことといえます。

自分を否定的に捉えると、他人のことも否定的に捉えたり、他人からの言動を被害的に捉えたりすることで、対人関係がうまく成立しなくなってしまうからです。そうなると、コミュニケーションをとることが難しくなってしまいます。

海外の研究では、低学力、少年犯罪、薬物依存、10代の妊娠、自殺などと、自己肯定感に相関があることが指摘されてきました。日本においても、居場所がなく不安を抱える子どもたちが増えていることが指摘されています。私の外来で診察している小〜高校生(小児の精神疾患)も、自己肯定感が低い子が多いといえます。

私たちの調査でも、QOLが低いと抑うつ度(気分が落ち込んで、思考、感情、行動に影響が出ている度合い)が高く、QOLの低下と自尊感情の低下が密接に関係している、すなわち抑うつ度が高いと自尊感情が低くなることもわかりました。

私は、自己肯定感が低いと、人間関係の構築およびその後の人生におけるストレスを乗り越えることが困難になると考えています。ささいな体験を延々と引きずり、トラウマとなってしまうのです。

子どもが自己肯定感を保つには、親の影響、とりわけ母親の影響が大きいと考えられてきました。もちろんそれだけではなく、本人自身の要因や、民族性、環境の影響もありますが、子どもたちは主に愛着の形成時期に、母親もしくは父親が自分をどう見ているかで、自分自身の価値を推し量っていることが多いからです。

母親や周囲の大人が、子どもたちに「悪いところがたくさんあるから直さなければいけない」などと否定的なメッセージを送り続ければ、「できないのは自分が悪いからだ」と思い込んで、自分を受け入れることができず、自己肯定感は低くなります。

私がQOL調査をはじめた2000年頃から気になっているのは、子育てをしているお母さん・お父さんたち自身が自己肯定感が育まれていない、保てていないのではないか、ということです。

QOL調査では、自尊感情は小学生よりは中学生、中学生よりは高校生のほうが低い傾向があります。中高校生ではほかの国と比較しても低さが際立っていると考えています。

自己肯定感が低い親の問題点

自分自身の限界を感じれば自己肯定感は低下しますが、「それでいい」と思うことができれば、それ以上低くなりません。問題は、日本の青年は自分自身が「それでいい」と思えないまま大人になり、社会生活を送っているのではないかということです。

私たちが使用しているQOL尺度は高校生までを対象としたものですので、高校卒業後は同じ質問では調査できません。大人を対象とした自己肯定感の調査はいろいろありますが、広く一般を対象に行うものは仕事や夫婦生活などについても質問がありますので、単純に子ども版と比較することはできません。

推測の域を出ないのですが、自己肯定感が低い状態で社会参加したり、家庭で子育てを行うことになると、自己肯定感は回復しないのではないかと危惧しています。

結果、母親(もしくは父親)が、自分の自己肯定感が低いことを育児をしながら自分の子どもに投影してしまい(自分自身のとくに子どもの頃のネガティブな思いを自分の子どもに見いだしてしまう)、親が子どもを肯定的に評価できないと、子ども自身も自己肯定感が保てなくなるのではないか、と思っています。

 

PROFILE
古荘純一

小児科医、小児精神科医、医学博士。青山学院大学教育人間科学部教授。1984年昭和大学医学部卒業。昭和大学医学部小児科学教室講師、青山学院大学文学部教育学科助教授を経て、現在にいたる。日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会用語委員長、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門員などを務めながら、医療臨床現場では神経発達に問題のある子ども、不適応状態の子どもの診察を行っている。青山学院大学では、教育、心理、保育などで子どもにかかわる職種を目指す学生への指導を行っている。