“心配性タイプ”の精神科医が勧める「いったん保留」という魔法

“度を越した心配性”と自認する精神科医の鹿目将至先生によると、最近では「不安」に加えて「焦り」を感じる患者さんが増えているようです。そのようななか、心をラクに保つためにはどうしたらいいのでしょうか。具体策を教えていただきました

わからないことはイエス・ノーに分類せず「いったん保留!」でいい

世の中には答えがすぐに出ないこと、たくさんありますよね。やってみなければわからないことや、わかるまでに時間がかかること、時間をかけるほどいい結果が出ること。そんなことばかり。

精神科医になる前の僕は、それがすごくストレスだったんです。わからないことは今すぐ知りたくて、「悩む」こと自体がとてもストレスでした。答えが出ないままクヨクヨ悩み続けると、もうクタクタ。焦って「えいや!」で生煮えの答えを出して、失敗することもよくありました。

特に、精神科の治療法は患者さんによって個人差が大きいし、治療する先生によっても得意・不得意、合う・合わないがあるのでわかるはずもないんです。やってみなければわからない。時間をかけてじっくり患者さんと向き合わなければならない。

でも、それは医者の側の都合ですよね。患者さんもご家族も「どうしたらいいですか」「なんとかなりませんか」と僕を頼ってこられる。でも、僕はすぐに答えが出せない……。悩み、疲れ果て、僕は患者さんと向き合うことが怖くなってしまいました。

そんなとき、指導医の先生が言ってくれたんです。「みんな、わからないさ」「とりあえず、悩むのはやめて、いったん保留!」……僕より経験豊富な先生でも、「わからない」ことがあるのか。

それまで僕には、イエスかノーかしか、選択肢がなかった。イエスかノーかわからないことがあると、つまずいていたのはそのせいです。

でも、イエスでもノーでもない第3の選択肢として「いったん保留!」があったのです

そう知ってから、だいぶ気持ちが楽になりました。等身大の自分で、患者さんと向き合うことができるようになった気がします。虚勢を張る必要もなく、自然体でいられる。疲れも軽減したように思います。

「わからない」は「逃げ」ではない

日常生活でもそうですよね。

「子供はどう育てたらいいんだろう」「将来、僕の会社はどうなるんだろう」……そんな悩みも「う~ん、よくわからない!いったん保留!」。

そして「今、自分にできることをやって、それで様子を見ていくしかないよな」「まずは最善を尽くそう!」と、気持ちを切り替えます。

だから、「わからない」という選択肢を選んで、悪い結果になることは、まずありません。だって「わからない」は逃げじゃない。逃げどころか、「今できることに最善を尽くす!」という、覚悟の言葉でもあるんですから。

不安を断ち切り、「今、ここ」に集中するために、「いったん保留!」は魔法の選択肢です。

「変われない」自分を責めなくていい

「そんなの、言われなくてもわかってる!」「でも、できないものはできないんだ!」そう思うこと、僕にもたくさんあります。

たとえば、心配性な性格を人にイジられるのも、その1つです。僕はどこにでも日記帳を持ち歩いて、上司に怒られるとすぐ「ちくしょー」と書いたりするんですが、そういうところですね。

本にはよく書いてあるんです。「変えられないことを嘆くより、自分の力で変えられるものを、まずは変えましょう」って。そんなこと、人に言われなくてもわかってる。わかってるけど、何をどうしたらいいのかわからない。だからつらいんです。

新聞配達の仕事をコツコツ続けてきた男性の話です。コロナ禍で会社の業績が悪化したため、退職して役所に相談に行ったところ、こう言われたそうです。

「これまで、ほかにどんな努力をされてきましたか?」「ほかの仕事は何もされてこなかったのですか?」「同じような仕事を紹介するというのも、むずかしいと思いますので、何か資格でも取って、生活されてはいかがですか?」

すごく悔しかった。自分が情けなかった。言われて簡単にできるぐらいなら、そもそも相談になんて行かないのに。そうおっしゃっていました。

人はいつでも変われる。それはその通りかもしれません。でも、資格を取るにも時間がかかりますし、学校に通うとなると、さらにお金もかかります。簡単に「変われる」なんて、言ってほしくない。そう思いませんか?

がんばって、がんばって、がんばり抜いて、今をかろうじて生き抜いている。そういう人に「自分を変えろ」というアドバイスは、現実離れしていると思います。変えられない自分を再確認して、自分を責めるだけです。

「5分ルール」が自分の背中を押す! できることから始めよう

時代がちがえば、育った環境も、考え方もちがう。世の中の常識も全くちがいます。もっと言えば僕たちは、生まれる時代も、生まれる国も、生まれる地域も、生まれる家族も、生まれる前のことは何一つ自分で選べません。

僕たちにできることは、自分の今いる環境で、より自分らしく生きることです。

自分がなりたいような自分に、どうすればなれるのか、考えること。

自分の生まれた時代を、自分のリズムで、自分らしく歩むこと。

そのために他の人が何を言おうが、関係ありません。まず自分たちが幸せになること。それが一番大事なんだと、僕は信じています。

自分らしく生きたいけど、あと一歩が踏み出せないという方へ。僕はそう思い悩んだとき、自分の心のタンスから引っ張り出してくる言葉があります。

「できることだけ、少しだけ」

尊敬する先輩から教えてもらった言葉ですが、今も僕のモットーです。

「仕事を明朝までに終わらせないといけない」「たまりにたまった洗濯物を片づけないといけない」……でも、もう限界。何もできない。何もやる気がしない。でも、やらないといけない。苦しいですよね。これからやることを想像するだけで気が滅入いります。

そんなときに「できることだけ、少しだけ」。できないものはできません。もう、そこは潔くあきらめちゃいましょう。でも、少しだけ元気が余っていたら?1歩は無理でも、ほんの1センチなら前に進めるとしたら?

僕なら「5分ルール」を採用します。「5分だけやってみるか!」で始めて、5分できたら自分をほめちぎります。たった5分で、偉業を達成したかのようなベタぼめです。するとあら不思議。5分で終わるのがもったいない気持ちがわいてくる。

始める前は、山のように大きく見えたことも、ほんのちょっとだけやってみると、「あれ、意外にできちゃうかも?」とスイスイ進むことがよくあります。

そう思えたら、今度は5分を10分に、10分を15分にしていきましょう。5分ルール、けっこう使えますよ。ただし、無理はしないことです。できることだけ、少しだけ。「5分ルール」で始めて、5分以上は、やらなくてもOK

小さな一歩かもしれませんが、自分らしい生き方へと近づく、大事な一歩です。

 

PROFILE
鹿目将至

1989年、福島県郡山市生まれ。日本医科大学を卒業後、精神科医となる。現在、愛知県豊橋市の松崎病院に勤務。2020年4月に総合情報サイト・プレジデントオンラインで発信した「激増中『コロナ鬱』を避けるための5つの予防法~精神科患者の9割以上がコロナ案件」がYahoo! ニュースのトップページに掲載され、大きな反響を呼ぶ。