“うつ”と間違えられやすいミッドライフ・クライシスの乗り越え方

悩むおじさん

ミッドライフ・クライシスとは、中年期に陥ることが多いといわれている心理的危機のこと。悩みが多い人だけでなく、一見順風満帆な人も心に葛藤が生じ、無気力になってしまうようです。自身も「ミッドライフ・クライシス」を経験した医師である鎌田實さんに、それを上手く乗り越えるための具体的な方法を紹介してもらいました。

幸福度の低い国・日本

毎年、国連の関係機関から世界幸福度ランキングが発表される。1人当たりのGDPや社会的支援、健康寿命、人生における選択の自由度、他者への寛容さ、汚職や腐敗のなさなどを数値化したものだ。

2018年、日本はこの世界幸福度ランキングで54位だった。2021年はさらに下がって56位。日本はGDPや健康寿命については決して低くない。社会的支援や自由度もまあまあなのに、幸福度がなかなか上がらない。

日本人の幸福感が少ないのは、セロトニンのレセプターが欧米人に比べて少ないからだという説がある。日本の幸福度を上げていくには、一人ひとりの幸福感をもっと大事にしていく必要があるのではないか。

そこで身体と心の側面から幸福感を高めるために必要な4つのポイントを挙げる。

①セロトニンを増やす

レセプターが少なくとも、セロトニンそのものを増やしてしまえばいい。うつ病の治療では、脳内のセロトニンの濃度を減らさないようにする薬がよく使われている。そうすると、鬱々とした気分が減っていくからだ。

薬を使わなくても、感動したり、リズミカルな運動をした時に、セロトニンがよく分泌される。『70歳、医師の僕がたどり着いた鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』(集英社)で紹介した鎌田式のスクワットやかかと落としはこのリズミカルな運動にぴったりだ。もちろんウォーキングもいい。

②達成感を大事にする

目標を達成すると報酬系の快感ホルモン、ドーパミンが出る。ドーパミンが出ると気持ちよくなり、もっとやる気が出てくる。

コツは実現可能な目標を立てること。いきなりできそうもない目標を立てても大抵は失敗に終わる。小さな目標達成でも「やったー!」という気持ちになれるようにすることが大事だ。

③今の自分を肯定する

故・樹木希林さんと対談したり、交流があった。お家にもお訪ねした。彼女が乳がんになった時、ぼくに「乳がんになってよかったのよ」と言った。

幸福感の高い人は自分自身や現状を肯定できる人だ。どんなに厳しい現状でも肯定することで、プラスの側面が見えてくる。自分の人生の価値を自分で握り続けることは幸福感の基本。そのためには自分の生き方や生きてきた歴史を肯定することが大事と言える。

④睡眠が大事

睡眠は日々の疲れを解消し、健康を維持するうえでは大切だ。そしてストレスを溜め込まず、幸福感を長くキープしていくために、よい睡眠は欠かせない。

朝起きたら太陽の光を浴びて、体内時計をリセットしよう。太陽に当たると、セロトニンが分泌される。

夕方になり太陽の光が弱くなると、メラトニンという睡眠誘導物質が出てくる。睡眠時間が5時間を下回る生活が続くと、脳卒中や心臓病になる危険性が約2倍になるという報告がある。できるだけ朝起きて、太陽に当たり、いい睡眠をとることが大切だ。

ここまでをまとめておこう。

  • 感動体験やリズミカルな運動などによってセロトニンを増やすこと。
  • 小さなことでもいいので、自分の達成感を大事にすること。
  • 自分という存在を前向きに捉え直すこと。
  • 夜しっかり寝て、朝きちんと起きること。

この4つのことを意識することでセロトニンを増やし、ミッドライフ・クライシスを乗り越えていって欲しい。

「自分は幸せではない」とただ嘆いても、幸せは永遠にやってこない。ほんの少しの工夫と気持ちの切り替えで、幸せを呼び寄せることができるのだから、人生ってやっぱり楽しい。

文豪・トルストイにこんな言葉がある。
「幸福は、己れ自ら作るものであって、それ以外の幸福はない」

「野菜」と「たん活」で乗り越える

ミッドライフ・クライシスを乗り越えるには、食事と運動も大切になる。そのポイントが野菜とたんぱく質と筋肉運動だ。

女性の更年期障害は45~55歳くらいの10年間、卵巣の機能が急激に低下するために起きる。するとイライラや気分のムラなど、精神的に不安定な状態が起きやすくなる。

同時に、自律神経のバランスも悪くなり、ホットフラッシュが出てくる。のぼせやほてり、急に汗をかくといった症状が出てくる人もいる。不眠がちになったり、頭痛やめまい、肩こりなども起きてくる。

この時期に、血管がいつも収縮するようになると、血圧が上がってきてしまう人もいる。40代の時に、高血圧を発症させないことも大事だ。

もう一つ大きいのは、ホルモンの影響によって、骨粗しょう症が進みやすくなることである。

さらに、コルステロールが上昇する人も多くなる。更年期を境にして、高脂血症になってしまう人達が女性の半分以上いると考えたほうがいい。この高脂血症が続くことによって、10年後、20年後に脳梗塞や心筋梗塞の原因になってしまうのだ。

更年期障害は男性にも起きる

男性ホルモンのテストステロンの分泌が低下すると、加齢男性性腺機能低下症候群という男性の更年期障害になる。LOH症候群とも言われている。

具体的には、①太る、②筋肉量の低下、③仕事も趣味も楽しくなくなる、④集中力が低下する、⑤不眠がちといった症状が表れる。

これを機に、肥満や糖尿病、高血圧も起こりやすくなる。精神的にも落ち着かなくなり、元気がなくなり、うつ病と間違えられることもある。

この中年期を上手に乗り越えないと、高血圧や糖尿病、それによって将来、心筋梗塞や脳卒中、認知症などが起こりやすくなる可能性が強いということを意識しておく必要がある。

この男性の更年期障害も女性の更年期障害も、対処法としてはほぼ同じだ。「筋活」と「骨活」をすることが必要になる。

特にこの時期、骨が弱くなっていくので、鎌田式のかかと落としやスクワットはどうしても必要な運動だ。

また、男性も女性も太りやすくなるので、メタボにならないように、食事の注意を始めること。抗酸化力をアップするためには、野菜を1日350グラム摂ろう。野菜の中にあるカリウムは血圧を下げてくれるので、中年期に起きやすい高血圧を予防できる。

中年期に色々な病気にかからないために、しっかり野菜を食べよう。そして、貯筋をするためには「たん活」、たんぱく質いっぱいの生活も忘れないようにしたい。

この40歳ぐらいから、正しい食事法、減塩をしながら、1日60~70グラムぐらいのたんぱく質を摂ることを心掛けることが大切である。

ミッドライフ・クライシスを乗り越えるためには、野菜とたんぱく質と筋肉運動が大事なのだ。

 

 

PROFILE
鎌田 實

1948年東京生まれ。医師・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任、以来40年以上にわたって地域医療に携わる。現在、諏訪中央病院名誉院長。日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本・イラク・メディカルネット代表として、被災地支援にも精力的に取り組んでいる。2006年、読売国際協力賞、 2011年、日本放送協会放送文化賞を受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社)をはじめ著書多数。近著に『相手の身になる練習』(小学館)、『70歳、医師の僕がたどり着いた 鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』(集英社)などがある。