「挫折に強い子」「チャレンジする子」に育てるために、大切な言葉

親世代と比べると、保守的と言われる現代の子どもたち。その方が傷つかずに済むのかもしれませんが、いくら殻に閉じこもったところで、長い人生、失敗しない人はいません。挫折に強い子に育てるには、どうしたらいいのでしょうか。不登校ゼロを達成し、学力調査で全国一の県を上回ったこともあるという大阪市の「大空小学校」初代校長、木村泰子先生に伺いました。

「自分の殻に閉じこもる子」が増える理由

なぜ今の子どもたちや若者は失敗を恐れ、チャレンジしないかというと、失敗したら叱られる、失敗したら困るという経験値を持っているから。だから、失敗は子どもにとってピンチになってしまうのです。

大人ってずるいんです。「失敗してもいいよ」と口では言いながら、本当に失敗したら、怒ったり、怒らないまでもがっかりしたりする。その大人を子どもは全部見抜いています。どんな子も、です。見抜いていても口に出さないだけです。

例えば、失敗して大人にガーッと怒られたり説教されたりするでしょう。それで「わかったの?」って聞かれたら、「うん」と答える。黙って素直に聞いていれば早く終わるからです。

失敗を恐れるとどうなるかというと当然、失敗しないようにします。失敗しない方法はただひとつ、「行動をしないこと」です。

行動をすれば、矢が刺さる。何か言われる。でも行動しなければ、誰からも何も言われないし、恨まれもしない。自分を守ることができるんです。だから、自分という殻に閉じ込もって社会に出て行く子が増えてしまうんです。

社会に出て仕事に就いても、自分の仕事の範囲を決めてほしい、誰かと共同してやるのはお断り、自分のことだけやりたい、与えられたノルマだけをこなしていく、といった傾向が顕著に表れています。

教育現場である学校でも、いじめにつながったらいけないからと、トラブルを起こさないように、子どもが失敗しないような教育をしています。失敗経験のないまま大人になってしまったら、恐ろしくてチャレンジなんかできないのは当たり前です。

社会に出ていろいろなことにぶつかったとしても、それまでに「失敗したらやり直せばいい」「ピンチはチャンス」「失敗は宝物だよね」という経験が体中に染み込んでいたら、心が折れることもないはずです。

失敗が挫折につながったり、二度と立ち直れなくなってしまうことではなく、失敗したら「どうやり直そうかな」「やり直せばいいだけだよね」と思えるように。この経験を、この力を子どものうちに存分につけたいですね。

まずは大人が「失敗したらやり直せばいい」姿を見せる

子どもにいちばん影響力があるのは、親です。親はいちばん身近にいる存在ですから。

でも、安心してください。子どもだけでなく、大人だっていつからでも“やり直し”はできます。何といっても、大空小学校の校長として赴任してから、たくさんやり直しをしてきた私が言うんですから本当です。

この文章で、私が何でもできるように偉そうに語っているように見えたらごめんやで。

昔から決してこんなではありませんでした。もちろん、過去の私も一生懸命やってきましたよ。でも一生懸命やることがマルではないのです。

結局、子どもの事実がすべてなんですよ。教師であれば、目の前の子どもの姿、親であれば目の前の自分の子どもの姿。この事実が物語っているんです。

もう「一生懸命やった」とか「心を1つにして」みたいな言葉を使っている時代じゃないんです。

大人もたくさん失敗して、失敗を隠さず暴露するから、自分が変われる。失敗を隠したら変われません。

まず大人が失敗してやり直しをする姿。これを子どもが見たら、結果として子どもは失敗をチャンスに変えられるのです。

でも、大人が自分の失敗を隠して、子どもの失敗だけ責めて罰を与える。この子どもが大人になったら、残念ながら同じことをするでしょう。

子どもが失敗したら、こんな言葉をかけよう

子どもが失敗したときに大人がかける言葉はただひとつ。

「大丈夫?」

これだけです。あとはしゃべりません。大空小学校でも、これは徹底していました。失敗しても先生は怒らない。それを見ているから、先生がいないときに友だちが失敗しても、子ども同士で「大丈夫か?」と言えるんです。子どもは、必ず大人のまねをするんですよ。

逆に先生が失敗した子どもを怒っていたら、それを見ている子どもは、失敗したら怒られるから失敗しないようにする。つまり、自分の殻に閉じこもってチャレンジをしなくなります。

大空小学校で、あるお母ちゃんが「先生、うちの子ども、あかん」って急に言ってきたことがありました。

「どしたん?」と聞くと、そのご家庭ではごはんを食べるときにひじをつくな、という約束をしていた。でも、息子がひじをついて食べていて、おみそ汁をこぼした。

「ひじついてるからこぼしたんやろ。何回言ったらわかるの!!」とお母ちゃんはキレた。それで「先生、どうしたらええ?」って言うんです。

「こぼした後、どうしたの?」と私が聞くと、「じゅうたんも汚れるし、必死で拭いた」と。「あんた、最悪やな、それ」と私は答えました。

子どもの失敗を叱ってはいけない

確かに彼はひじをついていたけれど、おみそ汁をこぼそうと思ってわざとついていたわけではない。ということは、おみそ汁をこぼしたことは、単なる子どもの失敗です。

「今度おみそ汁をこぼしたら、平然として『大丈夫?』でええねん」と。「大丈夫なわけないやろ」って子どもは言うかもしれないけど、大事なことは失敗を叱ることではなくて、自分がやってしまった失敗を自分でやり直す、この力をつけることです。

自分でこぼしたんだから自分で元に戻す、どうってことない、あんたの問題だからって平然としているのが大人の関わり方。怒るだけ怒って、結局親が片付ける。これが最悪なんです。

「大丈夫?」と声はかけるけど、大人は一切手伝わない。大人が覚悟して我慢する。

我慢するのが難しかったら最初から怒らないで、大人が全部片付けるほうがずっといい。でもね、ここで大人が我慢して、子どもがこれを成功体験として味わったら、ちゃんと学ぶんです。

大人は勝手なものです。今まで子どもが失敗したら怒る、あるいは先回りして失敗しないようにお膳立てしていたくせに、「これでは子どもが育たない」と気づいたら、急に「何でもチャレンジしてみたら?」などと言う。

「このままだと失敗しそうだな」というとき、この本に書いてあることを実践して、我慢して我慢して、「大丈夫?」と急に態度を変えた言葉かけをする。

それで子どもに「うるさいな」なんて言われようものなら、「私がこれだけ心配しているのに、なに、その言い方は! ありがとうくらい言えないの?」などと勝手にキレてしまう……。そしたら、それで終わりです。

親子でもこれまで築いてきた関係性があります。大人が変わっても、瞬時に関係性まで変わるとは限りません。

大人は覚悟を持たなければいけません。それは“相手に求めない覚悟”です。まず大人がチャレンジして行動する。大事なのはここ。大人もチャレンジする力が必要です。

大人が覚悟を持って変わったら、子どもは確実に変わる。ここは揺るぎない信頼を持っていてください。ただし、焦らない。

子どもが1分で変わるのか、半年なのか、1年、2年、場合によっては10年かかる場合もある。

それでも家庭なら、関わる大人(=親)の「大丈夫?」のひと言で子どもは安心してチャレンジする力をつけることができると思います。

 

PROFILE
木村泰子

大阪府生まれ。武庫川学院女子短期大学(現武庫川女子大学短期大学部)卒業。大阪市立大空小学校初代校長として、障害の有無に関わらず、すべての子どもがともに学び合い育ち合う教育に力を注ぐ。その取り組みを描いたドキュメンタリー映画『みんなの学校』は大きな話題を呼び、文部科学省特別選定作品にも選ばれた。2015年に45年間の教員生活を終え、現在は講演活動で全国を飛び回っている。東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター協力研究員。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』(小学館)、『「ふつうの子」なんて、どこにもいない』(家の光協会)などがある。

 

10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方

10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方

  • 作者:木村 泰子
  • 発売日: 2020/11/10
  • メディア: 単行本