自己犠牲では続かない…チャリティや寄付とは違う「SDGs」の本質

SDGs

「SDGs(持続可能な開発目標)」というと、国や大企業のやるべきものだというイメージがありますが、実は中小企業などにも欠かせない要素となりつつあります。どんな会社も、社会に対してなんらかの責任を果たすべきだという風潮があるからです。SDGsという言葉が広がる以前から積極的に社会的な活動を推進してきた株式会社サニーサイドアップの代表取締役・次原悦子さんが、その原点と本質について教えてくれます。

きっかけは「白いリストバンド」

SDGsという言葉がまだなかった頃、私たちがはじめて会社として、自ら何かのアクションを起こしたのは、2005年の「ホワイトバンドプロジェクト」という貧困撲滅キャンペーンです。

その年の春、私はある衝撃的な動画を見ました。イギリスBBCのウェブページで、キャメロン・ディアス、ブラッド・ピット、トム・ハンクスといったハリウッドスター、サッカー選手のデビッド・ベッカム、マイクロソフトのビル・ゲイツといった錚々たるセレブリティが、次々に指を鳴らしているのです。画面はモノクロ。彼らは全員白いTシャツを着て、白いリストバンド(ホワイトバンド)をしています。

あまりのかっこよさに衝撃を受けて興味をひかれ、ウェブページをどんどん読み進んでいくと、私の知らなかった現実を知ることになりました。

世界では、3秒に1人の子どもたちが貧困のために亡くなっているというのです。動画で彼らが指を鳴らす間隔が3秒に1度なのは、それを意味していました。ウェブページには、「これは“Make Poverty History”のキャンペーンフィルムである」というようなことが書かれていました。調べてみるとMake Poverty History とは「貧困を過去のものにしよう」という意味でした。

彼らが腕につけていた白いリストバンドは、その意思表示。つまり、フィルムに登場していたセレブたちのように私たちも白いリストバンドをつけることで、「貧困をなくしたい」という意思を世の中に表明していこうという運動なのです。

伝説の「ライヴ・エイド」も焼け石に水

少し、時間をさかのぼります。サニーサイドアップを創業した1985年、ロックミュージシャンであるボブ・ゲルドフの呼びかけによって、「ライヴ・エイド」というアフリカ難民救済のためのチャリティ・コンサートが、ロンドンとフィラデルフィアで同時開催されました。

「ライヴ・エイド」には、U2、クイーン、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、マドンナといった超一流アーティストたちが無料出演しました。最近大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ』のクライマックス・シーンのあのライブです。

また、キャンペーンソングとしてマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが作詞・作曲した『ウィ・アー・ザ・ワールド(We Are The World)』という曲も世界的に大ヒットしました。

「ライヴ・エイド」は20世紀でもっとも成功したチャリティ・コンサートと言われ、集まった寄付金は1億2500万ドル(当時のドル円レートで、約280億円)に達しました。

ところが、日本円にして280億円にもなるチャリティ金でしたが、それでもアフリカ諸国が先進国に返済する債務の、たった1週間分の利息に過ぎませんでした。貧困を生んでいる仕組みは、寄付だけではどうにもならない、焼け石に水であることが、皮肉にもわかってしまったのです。

では、仕組みごと変えるにはどうすればいいのでしょうか?それは政治を変えることです。「ホワイトバンドプロジェクト」は、まさにそれ。2005年7月にイギリスのグレンイーグルズで開かれようとしていたG8サミット(主要国首脳会議)に向け、貧困問題に対する「世論」を醸成することが目的の運動でした。

貧しい国への11兆円につながる

私がホワイトバンド運動の動画に感銘を受けたとき、日本での「ホワイトバンドプロジェクト」は、いくつかのNGO・NPOで構成されている『「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン」実行委員会』が中心となって、キャンペーン展開がスタートしつつあるところでした。

しかし、圧倒的にお金がありません。新聞などに広告を打ったり、印刷物を作ったりする費用はもちろん、その活動資金を集めるために販売するホワイトバンドの制作や流通ノウハウ、なによりそれらを世間に知らしめるPRノウハウを、彼らは持ち合わせていませんでした。私たちはそこをサポートしたのです。

その時点で、G8サミット開催まで数カ月しかありませんでしたが、私たちはまず日本版のホワイトバンドのフィルムを作り、たくさんの文化人やアーティスト、アスリートに登場してもらいました。

そうしてG8サミット開催に間に合う形で日本でのホワイトバンドを発売。初回生産の30万本は即完売しました。PRは私たちの得意とするところなので、ホワイトバンドをつけている中田英寿の写真を新聞に掲載してもらい、話題になりました。

テレビのニュースや雑誌などで「中田も賛同しているキャンペーン」として紹介されたことで、クリエイターやアーティストがキャンペーンに賛同してくださり、キャンペーン動画に参加してくれました。ホワイトバンドをつける著名人も増え、街にはホワイトバンドをつけて歩く人の姿も見られるようになりました。

日本でのホワイトバンドは、最終的に600万本近くにもなる、とてつもない本数を売り上げました。キャンペーンの効果は如実に表れました。

2005年7月、イギリスのグレンイーグルズで行われたG8サミットでは、貧困問を中心に話し合いが行われ、アフリカへのODA(政府開発援助)を、500億ドル(当時のドル円レートで、約5兆円)増額することが決定されます。

また、同年9月に開催された国連ワールドサミットでは、小泉純一郎首相(当時)がアフリカへのODAを3年間で倍にすると表明。そしてさらには、世界銀行とIMF(国際通貨基金)が、貧困国への債務550億ドル(当時のドル円レートで、約6兆円)相当を、債務帳消し、あるいは削減することが決まりました。

つまり世界中で行われた「ホワイトバンドプロジェクト」は、世界の貧困に対する国民の関心を集めることで各国の政府にプレッシャーをかけ、貧しい国の人々のために1050億ドル分、当時の日本円にして約11兆円分の恩恵をもたらす一つの大きな力となったというわけです。

SDGsに「自己犠牲」は必要ない

ホワイトバンドプロジェクトのキャンペーンは、サニーサイドアップとしては完全に赤字でした。当初は私たち社員の実働分の最低の賃金や交通費だけは実費としていただくつもりでしたが、ホワイトバンドの製作原価(工場に支払う分)と流通費だけをいただき、それ以外はすべて、貧困をなくすための活動費に回したからです。

キャンペーンにのめり込み、600万人の方々にホワイトバンドをつけていただきましたが、私たちはそこで利益を取るどころか、マックスで何億円という借金を抱え、自転車操業していたのが現実でした。

そうせざるをえなかった背景には、当時の日本の空気が大きく影響していました。「チャリティ=寄付」のイメージが強かったため、社会貢献や善い行いに「自己犠牲の精神」を求めてくる人が多かったのです。

ここで一つ、強調させてください。企業がSDGsへの取り組みを行う場合、「自己犠牲」を掲げるべきではないと思います。自己犠牲はサステナブル(持続可能)ではないからです。

ある問題に対してずっと本気で取り組む、応援するためには、その事業がサステナブル(持続可能)でなければなりません。100メートルダッシュのような筋肉の使い方で、フルマラソンは走りきれませんよね。自分の身を削らなければできないような活動は、サステナブルとは言えないでしょう。

自腹を切る寄付やボランティア、財をなげうつような自己犠牲の精神はもちろん素晴らしいことだと思いますが、それには限界があります。ですから、企業がSDGsへの取り組みを念頭に置いて活動をする際には、きちんとビジネスベースに乗せるべきではないでしょうか。

ただ残念ながら、日本では企業の社会貢献の文脈で「ビジネス」という言葉を使うと、儲け主義のように受け取られて嫌われることがあります。また世の中には、「あなたたち企業は儲かってるんだから、寄付しなさいよ。それが企業の責任でしょう」というふうに言ってくる方もいらっしゃいます。

しかし、それは筋違いだと思います。まず儲かっている会社であれば、法人税を払います。これも立派な社会貢献です。寄付と同じ価値があります。私は、サステナブルな社会貢献は、まっとうなビジネスでなければならないと思います。

SDGsを意識したビジネスを手掛ける際には、このことをまず念頭に置くべきでしょう。大事なのは持続可能、サステナブルであること。だからそのためには、ちゃんと利益を確保してください。それがソーシャルビジネスというものです。

もちろん、寄付やボランティアも大事です。今すぐに現金を必要とするケースは世の中に多々ありますし、それ自体を否定はしません。

でも現実的に、普通の企業が「世界で困ったことが起こっているから、何億円寄付します」なんてこと、できないですよね。しかし、その効果に匹敵するアクションはビジネスベースでも可能だと私たちは信じています。

 

PROFILE
次原悦子

1985年、17歳でPR会社サニーサイドアップを設立。中田英寿などのトップアスリートを世に送り出したほか、「ホワイトバンドプロジェクト」を始めとするさまざまなソーシャルアクションを手がける。2021年6月に経団連ダイバーシティ推進委員会の委員長に就任。二児の母。現在独身。

PROFILE
株式会社サニーサイドアップグループ

「たのしいさわぎをおこしたい」をスローガンにさまざまな企業・団体のPRを手がけ、2008年株式上場、2018年東証一部上場。近年ではPRを軸に多岐にわたる事業を展開するほか、「ソーシャルグッド推進室」を立ち上げ、PRのノウハウを生かした社会課題解決にも取り組んでいる。