「勉強しないと将来困るよ」の脅し文句が逆効果でしかないワケ

説教される子ども

「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。本人が必要としていないものは、たとえ周囲が強制しても身につかないという意味のことわざです。いくら促しても勉強しようとしないわが子を前に、この言葉を思い出した親御さんも多いのではないでしょうか。開成中高の校長を11年務め、現在は北鎌倉女子学園学園長として教育に携わってきた柳沢幸雄先生に、思春期の子どもを持つ親の心構えと必要な働きかけについてうかがいました。

好奇心がなければ勉強はできない

子どもが自発的に勉強する様子がないのを見かねて、「勉強しないと将来困るよ」と、つい脅し文句のようなこと言ってしまう親御さんは多いようです。

でも、そんな方に聞きたいのですが、ご自身は今、困っていますか? 「私は十分に勉強してきた」というなら別ですが、「私もあまり勉強してこなかった」「なかなか勉強のスイッチが入らなかった」という方でも、現実としてお子さんをしっかり育てていますよね。

自分の足で立ち、自分の頭で判断し、経済的にも自立しているはずです。それで十分ではないでしょうか。

勉強しない子に「そんなことじゃ将来困るよ」と言うのは、親としては励ましているつもり、あるいは助けてあげるつもりなのかもしれません。でも、そんなふうに脅されて、勉強をやる気になる子どもがどれだけいるでしょうか。

「それもわかるけど、つい言ってしまうのは、子どもが勉強をまったくやらないからだ」という親御さんもいます。

少し厳しい言い方をしますが、お子さんをそうしてしまったのは、ほかでもない親御さん自身なのです。

本来、子どもは好奇心のかたまりで、「なんでもかんでもやってみたい」と思うものなのです。その好奇心をうまく引っ張り上げることができず、好奇心の芽を摘んでしまったのが一番の原因でしょう。

好奇心に応じて行動する、子どもはまずこの“心地よさ”を感じることが大切です。この心地よさを感じていなければ、その先の、勉強して難しい問題が解けたときの心地よさを感じなくなります。
 
子どもが興味をもったことに対して、「勉強とは関係ないから」と興味を奪ってしまうと、“心地いい”感覚を知らないままになってしまうのです。幼い子どものころはともかく、子どもが大きくなるにつれ勉強と好奇心を切り離して考えがちですが、もとより勉強は好奇心がなければできません。

「勉強」だけを取り出して「勉強しない子」と決めつけるのではなく、子どもが自然にもっている好奇心を大人がしっかり受け入れてあげる。子ども自身が、「受け入れられている」と感じているかどうかが大切です。その状態をキープできていれば、あるときたまたま「勉強」に好奇心が向いたとき、自分から机に向かうようになるでしょう。  
 
小学生が自動車の形や鉄道の名前、ポケモンの名前などを驚くほど大量に覚えることができるのは、何よりそれが好きだから。興味があることの知識はいくらでも頭に入ることは、親御さんご自身の経験からもわかるはずです。

子どもにとっては、大好きな電車の車両番号を覚えることと、かけ算の九九を覚えることは、実はそれほど変わりません。親は「かけ算=勉強」「電車の名前=勉強とは関係ないこと」と分けてしまいますが、それはあくまで大人の価値観。
 
驚くほどくだらないことにこだわったり、変なものを集めたり、ハマったりしますが、そのたびに親は、「へえ、面白いね」と話を聞いて、放っておけばいい。そういうことをしてこなかったツケが、いざ勉強をさせたいときにまわってくるのです。

子どもはいつ、本気になって勉強を始めるのか

また、日本の親御さんは、子どもの“できていないところ”にばかり目がいき、それを細かく指摘しがちです。「できていないところ」というのは、親からすれば自分から勉強しようとしない、あるいは身を入れて勉強をしない、というのが多いのではないでしょうか。でも、それはまだ機が熟していないだけ、ということも多いのです。
 
精神的な成長が遅い子もいれば早熟な子もいます。そのとき、どういう友だち関係があってどういう情報を得るか、あるいはどういう本を読んだかによって、触発されるものは異なります。子どもはそのつど言葉や行動でメッセージを発しますが、それはまさに今、時が満ちた、機が熟したから出てきたものなのです。

勉強をしなければならないと感じたら自分からやり始めるでしょうし、そう感じていないとしたら、いつまでもやらないかもしれません。大人はそれを注意深く観察して、引っ張り上げてあげるべきなのです。機がまったく熟していないものを引っ張り上げようとするのは無理があります。

「機が熟すまで待っていたら、うちの子はいつまでたっても本気で勉強しません!」
 
そんな親御さんの悲痛な声が聞こえてきそうですね。勉強するまで待っていたら、大学受験に間に合わなくなってしまう……。親御さんが焦る気持ちもわかります。
 
結論からいうと、それはそれでいいのです。それが子どものもつ生命力です。大人になってから、「もっと勉強しておけばよかった!」と思うことは、私たち大人でもありますよね。後悔したらそのときが「機が熟したとき」なのです。

「そんな無責任なことを!」と思われるなら、本でもSNSでもYouTubeでもいいので、やる気をうながす情報を親御さんがさりげなく子どもに伝えるといいでしょう。
 
いずれにしても、お子さん自身が「(自分のために)やらなくちゃダメだ」「どうしてもやりたい!」といった必要性を感じなければ、本当に身につくことはないのです。

親の望む方向へ「ちょい足し」してあげる

ただし働きかけは必要ですし、思春期からでも遅くはありません。今は子どもが勉強に興味を示さないとしても、親が率先して子どもの好奇心を受け入れるように変化して、子どもが好奇心の芽を出すのを待ってあげればいいのです。
 
そのときは、ただ受け入れるのではなく、勉強のほうに向けていくことが重要です。好奇心の対象はゲームでもテレビでもかまいません。そこに大人が「ちょい足し」をしてあ
げて、勉強に興味を向かせてあげられるかどうかなのです。

「ちょい足し」とは料理でいう最後の味つけ。最後にどんなスパイスをふりかけるかで、自分好みの味になるかどうか、勉強の方向に向かうかどうかが決まります。

私自身のケースでお話しすると、長男は法律の世界に、次男は医学の世界に行きました。小さいころ、電子回路をつないで電球が点滅したり、ブザーが鳴ったりするようなおもちゃを与えると、それに対する反応が長男と次男ではまったく違っていました。

長男は興味なし、次男は夢中でやっていました。長男は論理的なものが好きで、次男は技術的なものが好き。それぞれ興味が違ったので、子どもが興味を示す方向に促したら、どんどんその方向に進んでいったのです。

私はもともとシステムエンジニアだったので、息子と一緒にゲームをつくったこともありました(なかなか動きませんでしたが……)。ゲームから、パソコンに興味をもつこともあるかもしれません。ゲーム=悪と決めつけずに、そこにちょい足しをして親が望む方向にもっていけるとベターです。

とにかく私は、「子どもが興味を示しているかどうか」で判断をしていました。けっして親のほうの判断ではなく、主体はあくまで子どもです。

子どもが興味を示すということは、その子に本来備わっているものの表れですから、それを受け止めて、伸ばしてあげる。これをけっして忘れないようにしてください。

 

PROFILE
柳沢幸雄

1947年生まれ。東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長、前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。1971年システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。1974年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。