コロナでがん検診の受診率が低下…懸念される“進行がん”の大幅増

健診

「日本人の2人に1人ががんになる」といわれていますが、日本のがん検診受診率は先進国のなかでも最低レベル。さらに、このコロナ禍で「不要不急の外出自粛」が呼びかけられたこともあり、2020年度のがん検診受診率は大きく減ってしまったそうです。未発見のがんが大幅に増加しているという懸念があります。ただし、国立がん研究センターに所属するがん検診の専門家である中山富雄先生によると、がん検診にも“受けるべきもの”と“必ずしも必要ないもの”があり、私たちはそれを賢く選択しなければならないそうです。詳しくお話をうかがってみましょう。

がん検診の「受診控え」で1万人のがんの発見が遅れる!?

2020年1月、国内で初の新型コロナウイルス陽性者が確認されて以降、私たちの暮らしは激変しました。

不要不急の外出の自粛が求められ、目に見えぬ新型コロナウイルスに怯えるなかで、自衛策といえばマスク・手指の消毒、そして「外に出ないこと」。結果、「身を守るために控える外出」のなかに、なぜかがん検診まで含まれてしまったようです。

がん検診の受診控えを危惧する現場の声を受けて、公益財団法人日本対がん協会はコロナ禍での五つのがん検診(胃、肺、大腸、乳房、子宮頸部)の受診状況を調査しました。

結果はと言うと、2020年度の受診率は前年よりも30.5パーセントも減少していました。がん細胞は人間の身体のなかで毎日5000個も発生しています。だからといって皆がんになるのかというとそういうわけではなく、その都度、免疫細胞ががん細胞を退治するので事なきを得ているのです。

しかし、免疫細胞の攻撃をすり抜けたがん細胞がいると、いずれ「がん」を発症させてしまいます。

がん検診の受診率が約三割落ちるということは、早い段階でがんを発見するチャンスが失われたということ。少なくとも一万人以上の人が未発見の状態になるという予測が出ています。

内視鏡検査が激減。1日50人がたった3人に

1960年、胃がんの検診ができるレントゲンカーが各地を巡回したのが、日本のがん検診の始まりといわれています。立ち上げに尽力なさった東北大学の黒川利雄教授が「がん検診」を始めたのは、「治療をしたい」というただその一心からだったそうです。

当時のがん患者さんのほとんどは自覚症状が出てから、つまりがんが進行した状態でやっと診察を受けるため、入院とはすなわち「看取り」。「痛い、苦しい」を少しでも軽くするのがやっとで、元気に退院できる人はほとんどいませんでした。

治したいのに治せない。もっと早く受診してくれれば……。私が医師になった1989年の呼吸器科も同じような状態だったので、やるせない気持ちは痛いほどわかります。

看取りのための入院ではなく治療のための入院にするためには、がんを早く見つけなくてはいけません。そうして始まったのが、がん検診なのです。

コロナウイルスを恐れるあまり、検診を受ける人が減ったらどうなるか? 受診控えの揺り戻しは2~3年のスパンであらわれる可能性があります。そのときには、がん検診が存在しなかった1970年代のがん患者さんのように、入院がすなわち看取りとなるほど一気に状況が後退するかもしれないのです。

2020年の非常事態宣言中、患者さんがパッタリ途絶えてしまったという開業医の先生方は大勢いらっしゃいます。

かつては1日50人に内視鏡検査をしていた先生が、「1日に患者さんが3人来ればいいほう」と嘆きつつ、「このままでは初期段階でのがん治療の機会を失う患者さんが増えてしまう」と非常に心配していました。助かる命が助からなくなるのです。

内視鏡医の心配を裏付けるデータも出ています。十分治せそうな比較的軽い状態の手術が減ったのです(「大阪大学及び関連施設における大腸癌手術の実態調査」)。

「がん検診でひっかかって病院で検査、初期段階のがんが見つかって手術」というルートができているにもかかわらず、第一歩となるがん検診に到達する方が減ったがために機能しなくなっているのです。

「がん」に関することを後回しにしてはいけない

新型コロナウイルスの影響は、がんの治療にも及んでいます。数週間単位で受ける必要がある放射線治療を、「コロナ禍で25回も通院するのは怖い」と拒否する患者さんも出てきたのです。

基本的に病院というところは、感染症が疑われる患者さんと一般の患者さんの動線が交わらないように配慮されているので、コロナだろうがインフルエンザだろうが、感染するリスクは大変低いのです。

「でも、医療機関でもクラスターが発生しているじゃないか」という反論が聞こえてきそうですが、多くの場合、それは介護老人福祉施設であって、がんの検査や治療をおこなっている医療機関とはまったく性質が異なります。

医療従事者へのいわれなき偏見や“マスク警察”の登場など、コロナウイルスに対する過剰反応はさまざまありますが、新型コロナウイルスを恐れるあまり、「がん」に関することを後回しにしてしまうのも過剰反応のひとつと言えるのです。

がん検診の目的は「がんで亡くなる人を減らすこと」

とはいえ、がん検診は何でも受ければいいというものではありません。

例えば、ピロリ菌に感染もしていない20歳の人が胃X線検査を受けたり、30歳なのに乳がんのマンモグラフィー検査を受けたりしてもあまり意味はありません。

がんはないし、検査はきついし、もし「それっぽいもの」が見つかったらショックだし、でも、たいてい再検査で異常なしとなって取り越し苦労で終わります。

では、どの種類のがん検診は定期的に受けるべきなのでしょうか。国立がん研究センターや厚生労働省は、がん検診に関するガイドラインやマニュアルを提示しています。

市区町村がおこなう住民検診に対しては「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」、職域がおこなうがん検診に対しては「職域におけるがん検診に関するマニュアル」です。

お堅い名前ですが、平たく言えば「損しないがん検診の受け方」を示したもの。ここで示した検診手法、年齢、間隔でがん検診を受けることで、検診がもたらしてくれるメリットを最大限受け取ることができます。

どの辺が「損しない」なのかというと、検査被曝などのダメージを最小限にとどめながら、「がんかもしれないもの」を見つけて再検査につなげられる点。がんかどうかの判断は再検査に委ねます。

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※がん検診の手法として何がよいのかは、専門家であるはずの医師にとっても判断が難しいものです。「科学的根拠に基づくがん検診ガイドライン」は国立がん研究センターが世界中の論文を客観的に判断し、がん検診を受けることによるメリットとデメリットを客観的に吟味して、実施するべきかを決めたものです。
現時点で実施が推奨された検診手法はごくわずかに過ぎませんが、その理由は、メリットが確定していない(乳房超音波検査など)ものや、デメリットが大きいもの(大腸内視鏡)などさまざまです。
厚生労働省はこのガイドラインを資料のひとつとして、専門家からなる「がん検診のあり方に関する検討会」で議論をし、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」「職域におけるがん検診マニュア ル」という形でがん検診の実施を推奨しています。
ここで示された以外の検診手法・年齢・検診間隔で受診することは、検診によるメリットを享受できる可能性は乏しく、逆にデメリットを被る可能性があるので、ご自分でよく吟味したうえで受診すべきかを考えてください。

一覧に胃内視鏡検査はあるのに大腸内視鏡検査がないのは不思議に思いませんか? また、どうせ再検査で受けるのならば、乳がん検診では最初から乳房超音波検査もやっておいたほうが手っ取り早そうです。

理由はこちら。大腸内視鏡検査は絶食や下剤などかなり身体の負担になります。また、便潜血で明らかに問題なしの人まで無理して受ける必要はなく、生涯一度と決めて受けるのはいいですが、毎年受ける必要はありません。

乳房超音波検査はそのメリットがまだ確定できていません。「マンモグラフィーのみ」「マンモグラフィーと超音波検診」の二グループを比較したところ、後者はがんの見落としが減ったという調査報告がありますが、逆に偽陽性が増加しており、さらには死亡率の低下につながったというエビデンスはまだ出ていないのです。

がん検診の目的は、「がんを見つけること」ではありません。「がんで亡くなる人を減らすこと」。がんの発見率が上がっても死亡率の低下がはっきり数値で確認できなくては、「受けるべきがん検診」とは言えないのです。

 

PROFILE
中山富雄

1964年生まれ。大阪大学医学部卒。大阪府立成人病センター調査部疫学課課長、大阪国際がんセンター疫学統計部部長を経て、2018年から国立がん研究センター検診研究部部長。NHK「クローズアップ現代」「きょうの健康」、CBCテレビ「ゲンキの時間」などのテレビ番組や雑誌などを通じて、がん予防、検診に関する情報をわかりやすく伝える活動を行っている。