家事をする子ほど“AIを使いこなせる人間”になる納得の理由

家事をする男子

コロナ禍でリモートワークが促進され、親が家にいることが増えました。日本ではいまだに女性が家事をする時間は男性より圧倒的に長いですが、開成中高の校長だった柳沢幸雄先生は、これからは男子にも家事のスキルが必要だと話します。家事ができるようになると、AIやプログラミングにも共通する考え方が身につけられるのだそうです。詳しく教えてもらいましょう。

“生活実感”が将来の生きる力につながる

子どもに炊事、洗濯、料理などの家事をさせることは、「勉強しなさい」よりも大切です。そもそも親は、子どもが中学生になったら勉強を教えてはいけません。子どもが中学に入学したら、勉強の話は一切放棄しましょう。教えるなら勉強より家事です。

私自身も家事は好きで何でもやります。特に料理が好きなのですが、化学の実験より簡単です。化学ではミリグラム単位で細かく計量して溶液をつくらなければなりませんが、料理では味見さえしっかりやれば目分量でも成功するからです。私は仕事で疲れたときもキッチンに立ちます。野菜を切ることはいい気分転換になるのです。

料理には、学習と実生活に生かせるネタがたくさん詰まっています。

たとえばハンバーグのタネをこねた後、最後に手のひらで空気を抜きますね。そのとき「なんで空気が入るとハンバーグのタネが割れちゃうと思う?」と聞いてみます。閉じ込められた空気が膨張するからなのですが、こんな話をするだけでも楽しい会話になりますし、もし学校の家庭科でハンバーグをつくることがあったら、今度は子どもが得意げに説明するでしょう。

また、「この卵焼きを家族4人が同じ大きさになるように分けてね」と頼めば図形の勉強になりますし、レシピを見ながら「このレシピは二人分の分量で書いてあるけど、3人分だとお砂糖は何グラム?」と聞けば、単に計算問題をさせるよりはるかに身につく学習になります。教科書や参考書に書いてあることだけが勉強ではないのです。

しかも料理のいいところは、おいしく食べられるという結果がついてくること。おなかがすいていれば、喜んで手伝ってくれるでしょう(笑)。

料理とプログラミングは基本的に同じもの

2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されましたが、料理はプログラミングの学習にも効果的です。

というのは、料理とはまさに「段取り力」だからです。たとえばごはんを炊きながら野菜を切って、野菜を切っている間に鍋に水を入れてお湯を沸かしておく。このような同時並行処理が必要です。

プログラミングを簡単に言えば、段取りをコンピュータがわかる言葉で書くこと。「最初にこれをやって、次にこれをやり、その間にこれをやって」という工程を効率的に配置し、コンピュータがわかる言葉で命令書を書き、コンピュータに仕事をさせるというものです。料理も論理的に段取りを立てなければ、狙った味を出し、無駄なく調理時間内につくることはできません。

つまりわざわざプログラミング教室に通わなくても、工夫次第で日常生活でもプログラミング思考を身につけられるのです。段取りよく料理をつくることができれば、それがまさにプログラミング。ほめるときにそう伝えてあげれば、プログラミングに対する苦手意識があったとしても払拭することができるでしょう。

それができるようになったら、次はお子さんに料理のレシピを書かせてみましょう。ひとつの料理だけではなく、二つか三つの料理を組み合わせた一食の献立として書くのがコツ。少しハードルが高いですが、どういう手順でつくると一番時間を節約できるかという視点でレシピが書ければ、プログラミング能力を伸ばすことができます。

プログラミングというといかにも難しそうで、理系でなければ難しいのではと思いがちですが、プログラミング教育とはプログラマーを養成するための教育ではありません。物事を論理的にとらえて、それを手順よく説明したり、理解できたりすれば十分なのです。

入り口を料理の段取りにすれば、親しみをもって学ぶことができるでしょう。

家事をすると「並行処理」の概念も学べる

家事は同時進行で行うものが多いため、頭を使って時間を有効に活用する必要があります。つまり、家事をすることでタイムマネジメントも身につくのです。

洗濯をするときは、終わるまで洗濯機の前でずっと待っていることはありませんよね。その間に料理をしたり、掃除をしたり、あるいは他のことをしているはずです。それ以外にも、お米を30分水につけてから炊飯器のスイッチを入れる、1時間後にお風呂に入れるようにセットしておくなど、時間を逆算する力も必要です。これはまさに、試験に向けた勉強の段取りや、仕事におけるプロジェクトの進行と同じです。

効率的に物事を進める方法を考えるのにも役立ちます。たとえば洗濯ものをたたむときに、どうやったら効率的に早くたためるか。「タオル」「Tシャツ」「下着」などというように仕分けをしてたたんだほうが早いか、あるいは「お父さん」「お母さん」「僕(私)」と、人ごとに分けてたたんだほうが早く収納できるか、あるいはたたんでから仕分けするか―など、いろいろと考えさせるのです。

しまい方にしても、Tシャツは重ねるより丸めて立てて収納するほうが探しやすいし、型崩れもしにくい。これはまさに書類の整理と同じです。

親御さんに家事をさせることの効果をお伝えすると、「子どもに手伝わせると時間がかかるんです」とおっしゃる方が多くいます。だからつい、自分がやってしまうのでしょう。

たしかに最初は時間がかかるし、教えることにも手間がかかります。でも子どもがやってくれるようになると、今度は逆に親御さんの時間が増えます。教育においては、最初の手間を惜しんではいけません。

「AIを使いこなせる人間」をどう育てるか

約50年前、私はコンピュータの黎明期にシステムエンジニア(SE)をやっていました。

当時は今のATM、昔で言うCD(キャッシュディスペンサー)のシステムをつくっていました。CDではお金の払い出しのみ可能で、預け入れはできなかった時代です。預け入れをコンピュータで管理し真札と偽札が識別できるようにするには、お札にコンピュータで読み取れるような印をつける必要がありました。

AIという言葉が出てきたのは最近のように思われていますが、1990年代にはAIを日本語訳した「人工知能」という言葉がすでにありました。

AIのしていることをごく簡単に言い換えれば「類型化」です。人間も、何かを考えるときは常に類型化をしています。「こういうときはこうだった」という経験を元に情報を積み上げてタイプ分けし、判断を効率化しているのです。

典型的なのが医者です。たとえば「熱が出た」という患者さんがいるとすると、医師は「熱は何度あるのか」「いつから出たのか」などの質問をして、そのたびに病気の可能性を消していきます。これがひとつ目の情報です。

次に、患者さんから「咳が出た」という情報がもたらされたら、当てはまらない病気を除外していきます。そうして薬を出す、検査をする、少し様子を見るなどの判断を下し、患者さんに伝える。これが類型化です。

先述したように「プログラミング=段取り」なので、コンピュータがわかるように翻訳して伝えることが段取りなのです。コンピュータには、ひとつひとつ、初心者に教えるようにイチから説明しなければなりません。

それに対して、人間は経験を元に類型化できるため、明らかな情報は適度に端折って説明します。AIとは、それらの経験をひと束にしたもの。経験を束にする=蓄積させることによって、あたかもコンピュータが考えているように見えるのです。

そのため、単純な仕事はAIに置き換えることが可能です。ですから、そのような仕事を担っていた人は失業すると予測されます。ただし、AIは過去の経験からしかものが考えられないため、次々と新しい経験をする必要があるような職業はなくならないでしょう。

AIを使いこなせる人間とは、段取りをきちんと考えられる人です。友だち同士で集まるときにパッと幹事を申し出て段取りができる人、仕事の優先順位をつけるのが上手な人はAIを使いこなしていくでしょう。

 

PROFILE
柳沢幸雄

1947年生まれ。東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長、前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。1971年システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。1974年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。