大きな声で呼びかけるのは絶対NG! 認知症が進まない“話し方”

老人と話す女性

認知症になる方は年々増加し、その介護に向き合う方も増えています。親や身近な人が認知症になったとき、「症状が進行してほしくない」と思う方は多いでしょう。それには、認知症の人への話し方を工夫することが大切です。患者とその家族に30年以上寄り添ってきた医学博士の吉田勝明先生に教えていただきました。

「話し方」を変えるのは早いほど効果的

青春時代に付き合っていた彼氏・彼女は覚えているのに、現在の配偶者は覚えていない、思い出せない、存在を認識できない。なぜなら、若かりし頃に大脳皮質に刻まれた彼氏や彼女の記憶は残っていても、そのあとに配偶者と過ごした日々の記憶は、すっかり失われてしまったから……。

このように、「確かに存在していたはずなのに、大切なものがなくなっていく」のが認知症です。いったん忘れてしまうと非可逆的、つまり、再び思い出す可能性はほぼありません。

よって認知症の治療・介護では、症状ができるだけ初期の段階のうちに、進行を遅くさせ、認知症の方が失うものを最小限にするよう、働きかけることが重要となります。

「働きかけるといっても、医療の知識や看護のテクニックがない一般人に何ができるの?」と思われるかもしれません。

今すぐできる「働きかけ」で効果的なのが、「認知症の方への話し方を変えること」です。初期の段階から介護者が話し方を変えられると、とても効果的だと思います。

認知症になると「何もわからなくなる」「もう、何を話してもムダ」と思う方も少なくないのですが、初期の段階では、まだ認知機能の多くが保たれています。

この時期であれば、まだ会話も比較的スムーズにできますし、介護者からの声かけの効果も出やすいのです。また、認知症の治療や対策は、基本的に早期であればあるほど効果が出やすいともいわれています。これは話し方を変えるという点においても、例外ではありません。

「話しかけ」が脳の機能低下を抑制する

できるだけ早い段階で話し方を変えるのが大事なのはわかった。でも、そもそもなんで「話し方を変えること」が認知機能を低下させないために大事なのか──。そう思われている方も多いでしょう。順を追って説明していきます。

認知症は、脳の機能低下により起こる症状です。ということは、脳の機能低下を抑制することが何よりも大事。そのためには、脳に適度な刺激を与えることに尽きます。脳に刺激を与えるのに最適なのは、人と交流し、話すことです。

普段何気なくやっていますが、会話には、脳を刺激する要素がたくさんあります。まず、言葉という情報を脳内に入れて情報処理し、何を話すか考え、新たな言葉を発することで、脳を幅広く使うことができる点。これは脳にとって、大きな刺激になります。

認知症の方との会話では、意味が完全に通らないこともあるでしょう。ただ、それでも互いに言葉を発することで、脳をわずかながらでも刺激することはできます。

とはいえ、会話がずっと続かなければ、介護者も疲れてしまいますね。認知症の方との会話には「続かせるコツ」があるので、それを介護者が知り、話し方を意識的に変えることが大切なのです。

また、認知症になると言語機能が衰え、おしゃべり好きだったのにすっかり無口になったというケースもありますが、ご存じのように、人の体は、使わない部分の機能がどんどん劣化します。

無口になったまま放置すると、あっという間に言語機能が失われていくのです。今ある認知機能をこれ以上低下させないためにも、介護者からの積極的な声かけが欠かせません。

中には「声かけや会話なら毎日しているけれど……?」と思っている方もいらっしゃるでしょう。そうして毎日声かけをしている方にこそ、「認知機能に働きかける話し方」をぜひ知っていただきたいのです。

かける言葉を少し変えるだけで、コツをちょっとつかむだけで、日々の会話の時間を脳トレのような時間に変えることもできると、私は思っています。

お年寄りによいとされる対応が正解とは限らない

「話し方なら、毎日介護しているからいい方法を知っています」

日々、介護に向き合っている方であれば、そのように思われるのも当然です。ただ、病院にいらっしゃる認知症の方とそのご家族を見ていると、ときに「よかれと思って」やっている行動が、症状を悪化させているようにも感じられます。

やってはいけない行動や言い方について説明しましょう。

【NG】よく聞こえるように大きな声で呼ぶ、話す

お年寄りは老化現象により、耳の聞こえが悪くなっていることが多いものです。「うちのおばあちゃん、耳が遠いから」と、おばあちゃんの背中に向かって、「おばあちゃん!」と甲高く呼びかけるのは避けましょう。

認知症の方に限らず、高齢者は一般に高い音が苦手なのです。

高い音は不快な音に感じられ、ガンガンと響くことが知られています。私のお会いした方の中には、かつては子ども好きだったのに、老人になって認知症を患ったとたん、子どもの声に「うるさい!」と怒鳴るようになったという方もいます。

一般に、低い声はともすると怖い印象で、とっつきにくく思われがち、そのうえ声の通りが悪くなるので、あえてトーンを高めにして話すのが、大人の気配りのようにいわれています。しかし、認知症のご老人に対しては別。声の高い女性は、一段階声を低くして話してみてください。

【NG】しっかり納得してもらえるよう、時間をかけて説明する

認知症の方は、長文が苦手です。たとえば「病院に着いたから、コロナ対策のために、入口で消毒スプレーをしましょうね」という声かけ。

この文章の中には、「病院に着いた」「コロナ対策」「入口」「消毒」など、複数のキーワードが入っています。一度にたくさんの情報を聞いても、認知症の方は瞬時に理解できません。

「さあ、消毒しましょうね」と言って、病院入口の消毒コーナーにゆっくり誘導するのが正解です。

理解ができなければ、その後の会話にも行動にもつながりません。いつもこれが続くと、お互いに話すことがおっくうになり、会話が途絶え、刺激されない脳の中で認知症が進行していってしまうでしょう。

【NG】相手を尊重して、希望をできるだけ聞いてあげようとする

認知症の専門施設に入所しているおばあちゃんに、家族の方が問いかけます。

「だんだん寒くなってきたね。あったかい服を持ってこようか? どれがいい?」

家族の細やかな愛情を感じる申し出ですが、認知症の方が「家にある、あったかい服」を思い出し、言葉に出して指示するのは困難なことが多いでしょう。

ここで適切だと言えるのは「だんだん寒くなってきたね。お気に入りの半纏を持ってこようか?」という伝え方。

この言い方であれば、「半纏を持ってくる」「半纏を持ってこない」という、イエスかノーで答えられます。

「せっかく何か持ってくるのなら、本人に選んでもらおう」「好みの服を着られれば、気が晴れるかも」など、認知症の方を尊重し、少しでも快適な環境を整えようとする気持ちは本当に素晴らしい!

しかし、認知症の方が答えられない質問をするよりも、答えられる質問で気持ちを吸い上げる工夫をするほうが、よりスムーズにコミュニケーションがとれるはず。

「どうしよう、なんて言えばいいんだろう」と、認知症の方が困惑することもありません。困惑→会話ができない→脳への刺激が途絶える……では、認知症の進行を遅らせることもできません。

認知症の方と話すときは「相手が話し続けられるように、話す」。これが大切です。会話が楽しく続くことが大切なので初期の認知症で本人が話せそうであれば、冒頭のような質問をしてもかまいません。本人の状態に合わせた声かけを心がけましょう。

そのためにも、「うちのおばあちゃんはアルツハイマー型認知症の中期で、失語が進んでいる」など、認知症に対する知識、実際の認知症の方の症状の特徴などをしっかり把握しましょう。

 

PROFILE
吉田勝明

1956年福岡県生まれ。医学博士。日本老年精神医学会専門医、精神科専門医。金沢医科大学医学部、東京医科大学大学院卒業。上尾総合中央病院などで勤務後、横浜相原病院を開設し、院長を務める。2021年横浜鶴見リハビリテーション病院院長に就任。30年間、認知症患者とその家族に寄り添い、介護する側・される側、両者の人生の質向上のため、それぞれの家族にとって最もよい治療法を模索し続けている。著書に『認知症は接し方で100%変わる!』などがある。