ついに親が要介護…身近な人が必ず知っておくべき3つの心構え

要介護

認知症になる方は年々増加し、その介護に向き合う方も増えています。親や身近な人が認知症になったとき、周囲の人はどのような心構えで接する必要があるのでしょうか?患者とその家族に30年以上寄り添ってきた医学博士の吉田勝明先生に教えていただきました。

認知症者が必ずたどる4つのステップ

認知症は発症期→初期→中期→末期と悪化していきます。発症からときを経るごとに悪化するわけですが、その間に、介護者の心理状態も徐々に変化していきます。

介護者の変化は、次の4つのステップをたどります。

【発症期】

典型的な症状
→記憶力・集中力の 低下。仕事や家事にミスが目立つ。


サポートや介護のポイント
→自信がなくなったからと、何もしないでいると症状は悪化するばかり。趣味や家事など積極的に取り組めるようサポートを。

【初期】
典型的な症状
→話が通じにくくなる。不安げでうつうつとしている。最近の事柄が記憶できなくなる(短期記憶障害)。仕事は続けられない場合が多い。


サポートや介護のポイント
→しっかり話を聞く、やさしく手を握るなど、安心感を与える働きかけを。「外出よりも家族と家で過ごしたい」など、本人の希望を尊重することで、症状が落ち着くケースもある。

【中期】
典型的な症状
→妄想・徘徊など異 常行動が目立つ。失禁など日常生活での失敗も増えるため、自立した生活は困難に。


サポートや介護のポイント
→異常行動がなぜ起きているのか、否定的にならず原因を取り除く努力ができればベストだが、無理は禁物。介護者自らの息抜き時間もしっかり確保して「ゆとり」を大切に。

【末期】
典型的な症状
→記憶障害が進み、覚えていられることはわずかに。寝たきりの状態になる方も。※感情に関する記憶は残っているとされる。


サポートや介護のポイント
→家庭内介護は難しくなるため、専門の施設への入所が必要なことも多い。入所しても、できるだけ頻繁に顔を見せに行き、安心させてあげることが大切。

介護者の心情は、介護が長くなるほどラクになる

まず、第1のステップは、発症がわかった段階の発症期。介護者の心は「認めたくない」「まさかそんなはずはない」「すぐに治るに違いない」「ほかの病気の影響だ」など、とまどいと否定でいっぱいになります。

そうしているうち、症状が顕著になってくる認知症初期になると、認知症の方の言動に混乱し、「どうしたらうまく介護できるのか?」「なんでうまく対応できないのか」「どうしてこんなことになったのだ!」と、怒りや混乱の気持ちと、介護生活への覚悟が入り混じった状態に。これが第2ステップです。

さらに時間が経過すると、第3ステップに入ります。認知症の方と過ごす日常に慣れてきて、多少は余裕も生まれます。

「どうしてこんなことに!」から、「はい、そうきましたか」と割り切れると、心情的にはラクになるでしょう。

それに対して認知症の方の症状は、日々悪化していきます。これまでの経験則では対応できないケースも頻発。介護者の心情は、「仕方ない」と割り切った気持ちから、「わかる、わかる」「そうだね、しんどいね」などと、認知症の方の存在や言動を自然に受け入れられるところまで達します。

ここまでくると、第4ステップに突入です。認知症の方の喜怒哀楽に共感でき、無用な焦りや嘆きはなく、完全に認知症の方を受け入れられるようになるのです。

「介護のための3つの心構え」を実行し、イライラから脱却!

先に説明した4つのステップでもおわかりのように、介護者は誰でも最初はイライラし、とまどい、不安を隠し切れないのです。この段階をいかに乗り切るかが、認知症介護のポイント。

ぜひ早いうちに、介護するにあたっての意識改革を、家族の間で共有してください。名付けて、「介護の心構え3カ条」です。

第1条 「がんばりすぎない」

介護は長く、終わりが見えないマラソンのようなもの。心身のスタミナ不足は致命的です。回避するためには、上手に手を抜くことも大切。がんばるばかりがよいことではないのです。

お風呂を嫌がって手に負えないなら、「垢で窒息はしない」と割り切って、その日の入浴はパスしましょう。もし何日も入らない日が続くようなら、入浴介助をプロに依頼する。自分の声かけでは、うんともすんとも返答しないなら、ほかの家族に声をかけてもらいます。場所を変えて、銭湯に誘うのも一法です。

ともかく、「自分で何とかしなくちゃ」「私が責任者!」なんて気負うことはありません。総力戦、しかも休み休みでいいのです。

第2条 「想像する」

認知症の方は、急に子ども時代に戻って語りはじめたり、働き盛りの頃のエピソードを延々話したりします。

「ああ、おじいちゃんは今、田舎の野山を駆け回っていた小学生時代にいるんだな」「お母さんは、中学校で先生をしていた1990年代にタイムトリップ中か」。想像力は、認知症の方の世界の案内人となり、むやみに振り回されず、的確な介護ができるよう導いてくれます。

介護者は、その時代・その舞台に立ち、小学校の同級生や教師仲間となって、相手役を演じてください。

「そうそう、あのときは大変でしたよね」と、見てきたような嘘は、許されるやさしい嘘。罪悪感を感じる必要はありません。認知症の方が楽しく、生き生きとした時間を過ごせれば、困った行動は軽減され、介護もラクになります。

第3条 「比較しない」

子育てと同じく、認知症の方の症状の現れ方や重篤度は、個人個人で異なります。しかし、それは「成績」ではないのです。他者と比較して一喜一憂するものではないし、合格ラインもありません。

人は人、うちはうち。「うち」にとっての幸せな介護って何? 認知症のおじいちゃん、おばあちゃんがニコニコ過ごせるために大切なことって何? その追求こそが必要です。

一人で抱え込み、完璧を目指してイライラ。「意味わかんない」と、認知症の方の心を想像しないでイライラ。ほかの認知症の方や家族のありようや、介護の方法を比較してイライラ……。

イライラ=ストレスは万病のもと。認知症の方の健康と同様に、介護者の心身の健康も大切です。「介護者自身を大切にする介護」は、3つの心構えを実行することで、おのずと可能になるでしょう。

前向きに介護現場から離れていいんです

介護者あってこその介護

ここまで、「介護者の心理の変化」や「介護の心構え」をお話ししましたが、日々の介護に疲れ果てて、心ここにあらずという介護者の方もおられるでしょう。

だからこそ私は、何度も声を大にして訴えるのです。

「一人で抱え込んだらダメですよ。ほかの家族や親族に現状を説明して、協力体制を組んでもらってくださいね」と。

それでもまだ「うちの亭主は仕事、仕事で、話す時間なんてないから」と、うつろな目……。実際に、家族が非協力的で理解がないことで、心を病む介護者は少なくありません。また、介護者が独身の一人っ子の場合、相談する家族や親族がいないこともあるでしょう。

でも、介護者が健康であるからこそ、認知症の方の介護ができるのです。介護者のイライラと疲労が限界に達し、倒れてしまったら、まさしく共倒れになってしまいます。

いっぱいいっぱいになってしまう前に、しっかりSOSを出しましょう。

「無理!」と感じることが増えてきたら、ほかの家族や親族、専門の介護施設やサービスを利用して、いったん介護の現場から離れてください。

諸事情で、自宅で認知症の方をみるしかない場合は、家族の協力が得られればいちばんですが、難しいならば介護ヘルパーさんの力を借りましょう。週に1~2日、数時間でも、介護しなくていい時間ができれば、心身ともにリフレッシュできます。

費用面も含めて相談できる地域包括支援センターや、悩みを共有できる家族会(認知症の人と家族の会など)に相談し、利用できるサービスや料金を早めに確認しておくと安心です。

また、かかりつけ医に進行状況の説明を受けたり、専門のスタッフから介護体制を含め的確なアドバイスをもらうことで、介護の袋小路から抜け出すきっかけをつかむこともできます。

クローズドにせずオープンに。そして、たった一人で100%の介護を目指す必要はなく、プロの手を借りて、「全部合わせて100%」になるべく努力するのが正解なのです。

 

PROFILE
吉田勝明

1956年福岡県生まれ。医学博士。日本老年精神医学会専門医、精神科専門医。金沢医科大学医学部、東京医科大学大学院卒業。上尾総合中央病院などで勤務後、横浜相原病院を開設し、院長を務める。2021年横浜鶴見リハビリテーション病院院長に就任。30年間、認知症患者とその家族に寄り添い、介護する側・される側、両者の人生の質向上のため、それぞれの家族にとって最もよい治療法を模索し続けている。著書に『認知症は接し方で100%変わる!』などがある。