「わかっちゃいるけど毎日飲んでしまう」はある“快楽物質”が原因

ビールを飲む人

お酒は「適量」を守っていさえすれば大きな問題にならないことも多いです。ところが、私たちはなぜ適量を簡単に踏み越えてお酒を飲んでしまうのでしょうか? 多くの人が、なぜアルコールという薬物に依存していくのでしょう。それは、アルコールによって脳にある「報酬」がもたらされるからです。脳の仕組みから見ていくと、カギを握っているのは快楽物質である「ドーパミン」なのです。

お酒はコスパ良くドーパミンを出してくれる

ドーパミンはやる気、元気、ハッピーな気分の素となる快楽物質です。脳の精神活動は、数十種類ある神経伝達物質がそれぞれの神経系で活性化することで起こります。脳内報酬系でドーパミンの分泌が増えると、多幸感、心地よさ、意欲向上などを自覚し、薬物への精神依存が形成されます。

アルコールは、少量でも効率よく報酬系でドーパミンの分泌を促します。また、セロトニンとオピオイドという神経伝達物質の分泌も増やすので、不安や心配などの〝負の感情〟を吹き飛ばし、苦痛を忘れさせることもできます。

この相乗効果で、情緒的には実に魅力的な薬理効果があります。こういう便利なものが安価ですぐ手に入るので、ハマりやすく、適量を簡単に踏み越えて飲んでしまうのです。

この投資に対して得られる報酬が大きいということこそ、アルコールの魅力であり魔力だと言えます。

ドーパミンは飲酒したときに限らず、日常のさまざまなシーンで分泌されます。楽しい趣味の時間、美味しいものを食べているとき、ゲームに熱中しているとき、恋愛でときめいたとき、また「成功体験」もドーパミンの重要な刺激剤です。

たとえば、一生懸命勉強して難関校に合格したり、仕事が評価されて「やった〜」「うまくいった」と大喜びしたりしているときは、脳内にドーパミンがあふれ出ています。努力が報われた喜びや快感は次のステップにつながり、いい方向に作用するでしょう。

ただし、このような成功体験を手にするには相応の時間を投資しなければいけないし、投資しても確実にうまくいくとは限りません。それに比べて、アルコールはいつでもどこでも簡単に、確実に気持ちよくしてくれます。人は易やすきに流されやすく、仕事や勉強をコツコツやって得られるドーパミンの量をたった数分で得られるとなれば、ついそちらに引っ張られてしまうものです。

飲酒を続け、やがてドーパミンによる快感に慣れてくると、シラフで「さあ、今夜は居酒屋で一杯やるぞ」と思った瞬間、反射的にドーパミンがどっと出てきます。まだ就業中でもすぐ仕事を切り上げたくなるほど、アルコールの報酬は魅力的なのです。お酒を飲めばまたドーパミンが出てたくさんの報酬が得られるので、「もっと、もっと」と勢いづいて飲んでいると、やがて危険なゾーンに入ってきます。

※脳の腹側被蓋野から側坐核を経て、前頭前皮質に至る神経

代替物でドーパミン不足を補う方法もある

報酬系にとっては適切なドーパミン活性が維持されているのがいい状態ですが、それが過剰になると神経にとっては毒になります。多量飲酒が習慣になりドーパミンがいつも出ている状態が続くと、脳はその影響を減らすために「神経順応」という反応をします。

これは動物実験やアルコール依存症者の脳画像の研究からわかっていて、過剰なドーパミンの影響を受けにくくするために、ドーパミンの分泌量や受容体の密度が低下するのです。専門的には、この反応を「ダウンレギュレーション」と呼びます*。その状態で禁酒をするとドーパミン活性が不足し、離脱症状が起きる原因の一つになります。

ここまでくるとなかなか元には戻れません。禁酒をすることで、今度はドーパミンの分泌量や受容体の密度が増えていくことを期待しますが、そうなるかはわかっていません。

臨床的には、うつ病などの病気が合併していない限り、禁酒開始後に起きる意欲低下や気分の落ち込みは一過性です。その他の離脱症状も半年もすれば和らいで、脳が回復してきたことを感じられるでしょう。

禁酒している間の対策として、アルコール以外のものでドーパミンを出すことは有効です。代替としてよく使われるのが砂糖(甘いもの)、たばこ、コーヒーなどです。

ただし、たばこによる代用には要注意。ニコチンが脳に入るとドーパミンが出ますが、長年禁煙していた人が再開すると、以前より喫煙本数が増えてしまうことがよくあります。

ドキドキ、ハラハラが多い「恋愛」もドーパミンを活性化させますが、依存症まで進行した方が禁酒のスタート時に恋愛をするのはタブーです。たいていは二人で酒盛りになってしまい、100%うまくいきません。より激しい刺激を求めて、ドロドロの泥沼にはまってしまうことも実際にあります。

また、アルコールがドーパミンを生み出す力は圧倒的に強いです。一度依存が強化された人は、甘いものやたばこなどで代用しても「ないよりはマシ」という程度で、そう簡単にドーパミン不足は埋められないかもしれません。

代用について自身で工夫するとしても、上手くいかない場合は専門家の指導を仰ぐようにしてください。

依存症を示す精神的・身体的サインを見逃さない

アルコールをはじめとする「依存」は、精神的なものと身体的なものに分けられますが、まず精神依存のほうが先行して、やがて身体的にも手放せなくなることが多いです。

飲酒の始まりは、大学生や社会人になって社交の場で飲む機会が増えることが一般的で、好き嫌いにかかわらず、飲んでいるうちに「楽しい、気分がいい」ことからだんだんとハマっていきます。

やめられない状態まで進行する経緯は個々によって異なりますが、仕事などで強いストレスがかかり、息抜きにコスパのいいアルコールを利用しているうちに酒量が増えることはよくあります。また、女性でよく見られるのは、うつ病や摂食障害などの精神障害を自己治療しようとお酒を飲み、依存症になるケースです。重度のアルコール依存症になる人は、メンタル面にも問題があることが多くあります。

お酒の適量

肉体的にはお酒を必要としていないのに、精神的な不安や苦痛をまぎらわすためにお酒で脳に麻酔をかけ続ける。そのうちに「耐性」ができてしまい、酒量が増え、それにつれて身体的依存も強化されていくわけです。「耐性ができる」とは、脳に対するアルコールの効果が薄れて、さらに大量に飲まなければ以前と同じ効果が得られなくなることです。

習慣飲酒が始まってから依存症に至るまでには、人によっては数十年という長い時間がかかりますが、そのプロセスを観察すると、依存症の初期の段階で精神依存を示す明らかな異変が表れます。

依存症が進行するプロセスは、「お酒を飲むことが習慣になる→耐性ができて酒量が増える→泥酔して前夜の出来事が思い出せないブラックアウトなどの飲酒問題が増える」というのが一般的です。

この段階は、すでに依存症予備軍と依存症初期の境界線に位置します。「飲みたい」という強い欲求から、自分の意思で使用をコントロールできない「精神依存」が強化されているからです。

「精神依存」を示すサイン(依存症と依存症初期の境界線で表れる)

 

・ほろ酔いでは満足できない
・ついつい飲みすぎてしまう
・飲酒にうしろめたさを感じる
・不安を感じて飲まざるを得ない
・一時的に減らせてもまた元に戻る
・飲酒したいという渇望がある
・飲酒しているときの方が、自分らしく振る舞える
・シラフはつまらないと思う

このような精神依存が強く表れると身体依存のほうも強化されて、その薬物が常にないと脳の活動が正常に行われなくなります。そのため、薬物が切れると激しい離脱症状が表れ、ときには死に至ることもあります。依存症へのプロセスのなかでは、初期から中期にその傾向が強まります。

「身体依存」を示すサイン


・飲酒後に寝汗、微熱、悪寒、下痢がある
・飲まないと不眠やイライラ、不安が表れる

ここまでくると、治療をしない限り自力では制御不能です。

依存症中期以降は、「昼夜を問わず飲む(連続飲酒)」「迎え酒をする」「飲酒による問題を繰り返す」「飲むためにウソをつく」「生活でお酒が最優先される」などの行動が目立ってきます。

そして最終段階の依存症後期では、肝硬変などの臓器障害も進行し、「食事を十分にとらないで飲み続ける」「飲酒により仕事や日常生活が困難になる」「飲酒により家族や社会的信用を失う」「飲酒により死の危険を指摘される」という状態になり、人によっては「認知症」も表れてきます。

ここまでの行程が、ゆっくり時間をかけて進んでいくのが依存症なのです。

 

seishun.jp

seishun.jp

seishun.jp

PROFILE
垣渕洋一

東京アルコール医療総合センター・センター長。成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。アルコール依存症の回復には行動変容が重要だという信念のもと、最新の知見を応用した治療を行い多くの回復者を送り出している。臨床のかたわら、学会や執筆、地域精神保健、産業精神保健でも活躍中。

「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本