「飲みすぎて眠い、ダルい…」翌朝の不調は“夜間低血糖”のせい!?

毎日忙しく働いている現代人にとって、お酒は1日の疲れを癒やしてくれる便利なものです。この1杯があるからこそ、明日も元気に頑張れる。酒好きにとって、お酒は大切な“ガソリン”だとも言えます。ただしデメリットもあるので、お酒とのつきあいには注意が必要。特に、飲んだ翌朝にどうにも体がシャキッとしない、だるいというとき、「夜間低血糖」を疑う必要があります。

「家飲み」が増加した背景とは

お酒は適量であれば、それほど体に害を及ぼすことはない。しかし「以前より酒量が増えた」「ついつい飲みすぎてしまう」という人は確実に増えている。

背景には、新型コロナウイルスの感染拡大がある。家庭での酒類支出額を見てみると、緊急事態宣言下にあった2020年4月は前年同月と比べて22.5%増、5月は26.9%増となっていた(総務省統計局の家計調査より)。

また、このコロナ禍でお酒を飲む頻度や量に変化があったかを調べた調査では、「飲む頻度が増えた」と回答した人が33.4%、また「飲む量が増えた」と回答した人が29.5%にものぼっていた(2021年3月20日~4月2日の期間、月に1回以上飲酒する20~50代男女1000人を対象にしたインターネット調査。キリンホールディングス調べ)。

感染拡大防止のため、飲食店が営業時間を短縮したり、酒類提供を控えていることを考えると、おそらく家飲みが増えているのだろう。

家で飲むのは店に比べれば安上がりだし、「もう閉店です」と追い出されることもなければ、終電を気にして切り上げることもない。酒飲みにとってはうれしいことだらけだ。反面、それが酒量の増加につながっている。

何より、先行きの見えない状況のなかで、お酒がストレス解消の道具になってしまっている人もいるのではないか。

お酒を飲んだときの睡眠は質が悪い

特に注意したいのが「夜間低血糖」という症状だ。お酒を飲む人のなかには、自分でも気づかないうちにこの症状に陥っている人もいる。

夜間低血糖とは、寝ているあいだに低血糖が起こることで、質のいい睡眠がとれないため、寝ているのに疲れがとれない、朝起きられない、翌日の仕事のパフォーマンスに悪影響を与える(会議中に眠気が襲ってくる人もいる)など、日常生活に多くの支障が出てくることがある。

お酒を飲むと、糖新生という糖質以外の物質からエネルギーをつくる流れがうまくいかず、低血糖になりやすくなる。それが寝ているあいだに起こるのが、夜間低血糖というわけだ。

お酒を飲むと爆睡できる、気持ちよく眠れると思っている人は、実はまったくの思い違いをしている可能性が高い。もしかすると夜間低血糖になっているのかもしれないのだ。

酔っ払って駅のベンチや道端で寝ている人もいるが、ただ酔っ払っているのではないのかもしれない。低血糖が起こり得る危険な状況は、体のなかでアルコールを分解しているあいだずっと起こっている。大量にお酒を飲んで寝ると、かなり長時間、低血糖のリスクにさらされていることになる。

夜間低血糖が起こると、交感神経が優位になる。寝ているのに力が入ってこわばっていたり、歯ぎしりをしたりして、まったく体は休まらない。なかには朝起きると筋肉痛があるという人もいるほどだ。飲んだ翌日に疲れがとれない、体がだるい原因の1つが夜間低血糖なのである。

2011年の9月、ヨーロッパの糖尿病学会で、重篤ではない夜間低血糖がある場合の個人の生活、健康などに及ぼす影響についてネット調査した報告があった。

その結果は、大部分の人の睡眠の質に影響があり、13%の人は睡眠の途中で目覚めてしまう(中途覚醒)と、眠れなくなってしまった。さらにその翌日には、22.7%の人が遅刻や終日勤務ができない状況になり、31.8%の人が会議や作業を休むなど、仕事への悪影響が出たという。

それだけではなく、低血糖そのものへの恐れや、「二度と目覚めることができないのではないか」といった恐れ、不安、罪悪感を覚えた人もいた。体のみならず、精神的な影響も大きいのである。

24時間持続血糖測定でわかった、翌朝の不調の原因

今から2年ほど前、ある雑誌の女性記者がクリニックに血糖値についての取材に来たことがある。そのとき、体験も兼ねて、随時血糖測定検査をした。

随時血糖測定検査とは、血糖調節異常を調べるための検査である。日々の食事日記とともに、上腕部に貼った機器を使って、血糖値を測定することで、食べたものと血糖値の動きの関係性がわかるのだ。測定期間は1週間以上、2週間まで可能だ。

データ

機器は肌に密着した状態なので、30分以内なら測定をしながら入浴することもでき、装着し続けても負担にならないようになっている。もちろん、寝ているあいだの血糖値も測定できる。

その結果、なんとほぼ毎日、夜間低血糖を起こしていることが判明したのである。本人によると、「食後に異常なほどの眠気が襲う」「甘い物を食べたあとに動悸や倦怠けんたい感がある」、さらには低血糖で気を失った経験もあるということだった。

ところが普段はほとんど甘い物を食べないため、まさか低血糖とは思っていなかったという。ただし、非常に酒好きだということだった。

毎晩基準値を下回る血糖値。これでは、いつも眠った気がしないのではないかと思われる結果だった。

聞くと、中途覚醒、早朝覚醒は当たり前、彼女のご家族によると夜中にうなされているようなこともあったらしい。

夜間低血糖では、寝ているあいだに下がりすぎた血糖値を上げるために、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールなどの興奮系ホルモン(交感神経を優位にさせる)が分泌され続けている。これではおちおち寝てもいられないはずだ。

彼女の場合、食生活と照らし合わせると、夜間低血糖の原因は飲酒にあることは明らかだった。そこですべてのアルコールをやめてもらった。すると、「本当によく眠れるようになった」というのだ。しかも朝の目覚めもよく、次の日も元気で仕事も順調に進んだという。

それまではほぼ毎日飲酒をしていたため、お酒を飲まないで眠ると、どれだけよく眠れるかを実感できなかった。やめてみなければわからない、というわけである。

その後、試しに少しお酒を飲んでみると、眠りが浅くなるのがわかったと言い、この取材を機に基本は飲まない生活に変わったという。

彼女は大酒飲みではなかったが、酒量が多くなくても夜間低血糖を起こす可能性は誰にでもある。

もし中途覚醒や眠りが浅いことに自覚があったり、日中に耐え難いほどの睡魔に襲われることがあれば、一度、お酒をやめてみてほしい。質のいい睡眠の何たるかがわかるかもしれない。

 

PROFILE
溝口徹

1964年神奈川県生まれ。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニックを開設。オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)療法に基づくアプローチで、精神疾患のほか多くの疾患の治療にあたるとともに、患者や医師向けの講演会もおこなっている。