肉、卵、牛乳はもう僕らに必要ない!「もどき食材」が地球を救う

大豆由来の肉

日本には古くから、大豆などのたんぱく質を利用する精進料理があり、豆腐料理やおから料理も好まれている。このため、「植物由来の代替食品が今アツい」と聞いても、「なぜ、いまさら?」と感じる人もいるだろう。しかし、代替食品には地球環境保全のためという目的もある。進化を続ける“もどき食材”についてチェックしておこう。

鶏、豚、牛に続く第4の肉、大豆ミートが注目される理由

人口爆発が引き起こす肉不足に、どのように対応すればいいのか。培養肉と並んで将来性を見込まれているのが、「もどき肉」ともいえる植物由来の代替肉だ。フードテックのスタートアップ企業は近年、新しい代替肉を開発しようと激しい競争を繰り広げている。

代替肉や培養肉が注目されている理由のひとつは、畜産が地球温暖化に影響を与えていることだ。国連環境計画の2018年の調べでは、人間の活動による世界の温室効果ガスの排出量は、CO2(二酸化炭素)に換算すると過去最高の553億トンにのぼり、その約15%は家畜に関連するものだという。

なかでも環境負荷の大きい家畜が牛で、家畜関連の温室効果ガスの3分の2を排出している。そして、その半分余りは「げっぷ」によるものだ。

草食動物のなかでも、牛や羊、シカ、ラクダなどは反芻はんすう動物といわれる。食べたものをいったん口で咀嚼そしゃくして胃に送り、その後、また口に戻して咀嚼し再び胃に送る。この反芻を繰り返しながら消化を進める。

牛が消化をしている間、胃の中では食べたものが微生物の働きによって発酵し、絶えずメタンが発生する。厄介なのがこのメタンで、CO2の25倍もの温室効果があるといわれている。

発生したメタンは牛の体内で吸収されることなく、大気中に多くはげっぷとして放出されてしまう。まるで冗談のような話だが、じつはこれが地球温暖化の原因のひとつになっているのだ。

一方、植物由来の代替肉なら、生産の過程でメタンは発生しない。動物の細胞から作り出す培養肉も同じだ。

では代替肉や培養肉は、本当に地球環境にやさしいのだろうか。代替肉の有力なスタートアップ企業、ビヨンドミートが生産の全工程で行った環境影響評価によると、代替肉は牛肉よりも温室効果ガス排出量が90%、水使用量が99%、土地使用量が93%、エネルギー使用量が46%少なく、人の健康や気候変動、資源保全などに良い影響を与えるという。

培養肉の場合はどうだろう。有力なスタートアップ企業、アップサイドフーズが発表したところでは、培養肉は牛肉よりも温室効果ガス排出量や水・土地の使用量が90%ほど少ない。ただし、まだ環境負荷を正確に計測する段階ではないという。

代替肉や培養肉の環境負荷に関する研究はそれほど進んでいないが、畜産と比べるとやはり地球環境にやさしいのだろう。

米国の若者「Z世代」にとって、代替肉は「クール」

現在、培養肉が実際に流通しているのはシンガポールのみ。世界のほかの国々では、工場直送の培養肉の試食会があるイスラエルを除き、一般の人たちはまだ味わうことができない。

一方、植物由来の代替肉はすでに市場に多く出回っており、米国を中心に全然珍しいものではない。しかも、市場規模は年を追うごとに急拡大が続いている。

代替肉は培養肉と比べて大きなアドバンテージがある。肉の細胞から作る培養肉は、宗教的に認められない場合があるが、植物由来の代替肉にはその心配がないということだ。

実際、代替肉スタートアップ企業を代表する1社、インポッシブルフーズの代替肉は、ユダヤ教の食事に関する厳格な規定「コーシャ」に認定された。

さらに今後、代替肉市場をさらに成長させる追い風のひとつが、米国の「Z世代」という存在だ。1990年代後半から2010年ごろにかけて生まれた世代のことで、ネットリテラシーが高く、環境問題に強い関心があるとされる。

こうした次代を担う若者たちは、畜産による環境負荷などの情報から、「従来の肉よりも、植物性の代替肉のほうがクール」という考えを持ちやすいという。このため、Z世代が社会の中心になっていくにつれて、代替肉の市場もさらに拡大していくという見方がある。

市場の拡大に伴って、ビヨンドミートは2019年にナスダックに上場。インポッシブルフーズも2022年4月までに上場を申請する方針を立てている。

代替肉

植物性の卵で作る「もどきスクランブルエッグ」

肉や魚と並んで、日常的に食べるたんぱく源といえば卵。栄養豊富な食材だが、ヴィーガンは食べることができず、栄養価的にはコレステロールが高いといった気になる点もある。そこで紹介したいのが、フードテックの技術を駆使して作られた完全植物性の「ジャストエッグ」だ。

油を引いたフライパンに流し込み、ほど良く混ぜると、スクランブルエッグの出来上がり。どう見ても、本物の卵で作ったとしか思えない。それどころか不思議なことに、食べると本当にスクランブルエッグの味がする。

ジャストエッグを開発したのは、サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のジャスト。2011年にハンプトン・クリーク・フーズという名で設立され、植物の研究開発からスタートした。

2013年、卵を使わない完全植物性のマヨネーズ「ジャストマヨ」を開発し、斬新な商品だと注目を浴びた。その後、社名を変更し、引き続き卵不使用をテーマとした研究開発を進めてきた。

ジャストエッグが代替たんぱく質とするのは緑豆。2018年に植物性の卵液を開発し、2020年にはスクランブルエッグや卵焼きなど、卵料理っぽいものを作れるジャストエッグを世に出した。これでフレンチトーストを作ってもおいしいそうだ。

現在、ジャストのホームページにはジャストエッグのほかに、卵焼きの形状をしており、電子レンジやトースターなどで加熱するだけで食べられる「ジャストエッグフォールディド」などを掲載している。

これらの商品は純植物性ながら、たんぱく質含有量は普通の卵と同等。一方、含まれるコレステロールはゼロで、摂り過ぎると体に良くない飽和脂肪酸は従来の卵よりも少ない。いかにも卵らしい鮮やかな黄色は、ターメリックで色づけしたものだ。

そもそも、なぜ卵そっくりの疑似食品が必要なのか?と疑問を感じる人がいるかもしれないが、ヴィーガンにとっては食卓が充実してうれしいことなのだろう。

乳牛はもういらない! ヴィーガンが待ち望んだ培養ミルク

畜産は地球環境に対する負荷が大きい。これは肉牛だけではなく乳牛の飼育でも同様だ。乳牛から1リットルの牛乳をしぼるには、900リットルもの水が必要とされる。加えて肉牛と同じく、食後にげっぷをするたびに、重要な温室効果ガスであるメタンを放出してしまう。

地球環境のことを考慮すると、できるだけサスティナブル(持続可能)な牛乳の生産方法を模索したいところだ。そこで開発が進んでいるのが、本物の牛乳に限りなく近づけた新しい食品だ。

こうした“牛乳もどき”を生産する代表的なスタートアップ企業が、2014年にカリフォルニアで設立されたパーフェクトデイ。彼らは乳牛の細胞を使うことなく、本物そっくりの“牛乳”を作ることに成功した。豆乳のように植物由来の成分ではなく、研究室で発酵させて作られるので、培養牛乳と呼ぶのがいいかもしれない。

パーフェクトデイが確立した培養牛乳の製造方法を紹介しよう。最も重要なポイントは、微生物の遺伝子に新しい情報を加え、乳たんぱく質を作るように改変することだ。

遺伝子操作した微生物を使って、乳たんぱく質を生成。これを取り出して、脂肪や植物ベースの糖質、そのほか必要な栄養素をプラスし、牛乳のような風味や味わいを持つように仕上げたら完成だ。

パーフェクトデイの培養牛乳はじつにヘルシー。コレステロールやグルテンなどを含んでおらず、乳牛の飼料由来の抗生物質やホルモン剤といった気になる成分も一切含有されていない。動物が関与していないので、ヴィーガンにもおすすめの商品だとホームページでうたっている。

乳牛からしぼったものではないので、牛乳アレルギーの人も安心して飲めそうな気がするかもしれない。しかし、この培養牛乳に含まれているのは本物の乳たんぱく質。アレルギーが気になる人は要注意だという。

パーフェクトデイは食品メーカーなどと提携し、この培養牛乳を提供。アイスクリームなどに加工され、米国の約5000店舗で販売されている。

子牛

 

PROFILE
石川伸一

宮城大学食産業学群教授。東北大学大学院農学研究科修了。北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現職。専門は、分子調理。関心は、食の「アート×サイエンス×デザイン×テクノロジー」。著書に『「食べること」の進化史』、『分子調理の日本食』、監修書に『食の科学』、『フードペアリング大全』などがある。