50代になったら親と自分の介護について目星をつけておく【佐藤優】

佐藤優

子どもの進路、自分の健康や生きがい、パートナーとの関係など、50代になるとさまざま心配事が明らかになってきますが、そのなかでも特に重要性が高いのが「介護問題」ではないでしょうか。作家の佐藤優さんは親の介護だけではなく、自分の介護にも気を配っておくべき時代がきていると主張します。

子どもが親の介護をする時代は終わる

家族の話で避けて通れないのが介護の問題です。

50代になると、自分の親の面倒をどう見るかということが一気に実感として身に迫ってくる。一番の問題は、経済的な余力がどこまであるかです。

特に問題になるのが、都会で働いている地方出身者の場合。たとえば、父親が亡くなり体の不自由な母親が地元で一人暮らしになった。近くにきょうだいも住んでいない。引き取りたいと奥さんに相談すると、OKしてくれた。

ところが、経済的な面を実際に詰めていくと、いろいろ難しいことがわかってくる。引っ越し費用はどうするのか、生活費は入れてもらえるのか、部屋を用意しようにも狭くて物理的に無理……。いろいろな意味で余裕がない。

バブル期までの経済的に余裕のある時代なら、子どもが親の面倒を見ることは当たり前でした。しかし、いまはデフレ経済で給料が上がる見込みはありません。これから子どもの教育費がかかり、自分たちの老後の資金さえ危うい。このような経済的に厳しい状態で、親の面倒を見る余裕のない人が増えているのです。

この傾向は今後さらに強くなっていくでしょう。ですから、自分の老後に介護が必要になったとき、子どもに頼らず自分の力で生きていく方法を考えるべきです。

また、60代、70代の高齢の人が80代、90代になる自分の親の介護をする、いわゆる「老老介護」で共倒れになる事例が目につきます。

無理をしてしまうのは、もともと真面目で責任感が強い人が多い。親を施設に預けるのはかわいそうだ、周りからどう思われるか気になる、人の世話にはなりたくない……。このように考える人は、共倒れの悲劇に見舞われやすいようです。

親の面倒は、決して一人で抱え込まないことが鉄則。きょうだいや近隣の知り合いなどの助けがなければ、すぐにでも行政サービスを頼るべきです。

『介護破産 働きながら介護を続ける方法』(結城康博、村田くみ)によると、年老いて介護が必要になった親を看取るまでの費用の目安は540万円ほど。介護期間の平均が約5年間といいますから、年に約100万円、月に10万円弱かかる計算になります。この額に、日々の生活費が加算されていくのです。

雨宮処凛さんの『非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望』という著書には、大手百貨店で年収1000万円だった40代男性が親の介護のために離職したところ、両親の介護ですべてお金を使い果たし、一時ホームレスになってしまったという例が紹介されています。

親の介護のためとはいえ、安易に仕事を辞めてしまうと取り返しがつきません。公的扶助、公的サービスを活用するなど、一人で抱え込まずに介護をアウトソーシングして、仕事はなんとしてでも続けるべきです。

現状、「養護老人ホーム」「特別養護老人ホーム」「老人福祉センター」「老人介護支援センター」など、さまざまな老人福祉施設が運営されています。

これらの公的サービスを最大限利用し、介護の専門家の力を上手に借りることが、親も自分も不幸にならない最大のポイントです。

これからの時代は、「介護は専門家に。愛情は家族で」が基本になります。病気になったら医者に診せるのと同じように、介護が必要となったらしかるべき専門のプロにお願いする。すべて自分で抱えようとせず、積極的に専門家に頼っていくことが大事です。

意外に手厚い日本の介護支援制度

しかし、いざ介護が必要になったとき、ほとんどの人は真っ先にどこに飛び込むべきかを知りません。どのような施設があり、どんなサービスがあるのかということについても、あらかじめしっかりリサーチしておく必要があります。

「地域包括支援センター」は、介護を考え始めたときにまず知っておきたい地域の総合相談窓口。保健師や社会福祉士、ケアマネージャーなどが、介護の問題を包括的にサポートしてくれる心強い機関です。

親の介護の問題を考え始めたら、まずはインターネットで、地元の地域包括支援センターの連絡先を調べ、電話をしてみましょう。要介護にならないために早い段階で対処するという予防の役割も担っているので、介護そのものを遠ざけることもできます。

次に大事なのが、公的保険や公的サービスをどこまで受けることができるのか、その範囲と内容をしっかり把握しておくこと。できるだけ公的扶助を利用することで、経済的な負担はもとより、肉体的な負担や精神的な負担も軽くすることができます。

たとえば介護保険制度には、医療費を補助するだけでなく、バリアフリーなど住宅改修費を支給する制度もあります。手すりの取りつけや段差解消などの改修費が、上限の20万円まで1割負担ですむのです。

また、介護休業制度をご存じでしょうか? 自分の両親、配偶者の両親など、介護が必要で自分が世話をしなければならない場合、対象家族一人につき約3カ月(93日間)まで、会社を休業できるという制度です。

この間は、介護休業給付金として休業直前まで受け取っていた給与の3分の2が支払われます。国による介護離職を減らすための制度なので、いざというときには大いに利用するべきでしょう。

老人ホームなどの介護施設探しも、親が元気なうちから始めておいたほうがいいでしょう。まずは基本的な、公的な介護施設を押さえておきましょう。

種類としては、まず中〜重度の介護を要する人が入居する「特別養護老人ホーム(特養)」があります。費用が安く人気があり、待機者が多いのが特徴です。月額利用料は10万円から15万円くらい。

リハビリをして在宅復帰を目指す高齢者を対象にした施設が「介護老人保健施設(老健)」です。3カ月おきに状態が判定され、入居・退去が決定されるのが特徴です。月額利用料は数万円から15万円ほど。

「介護療養型医療施設」は認知症も含めて、専門的な医療サービスを必要とする高齢者が入居するための施設です。月額利用料は相部屋で10万円から20万円くらい。

特に介護が必要ではなくとも、家族の支援が受けられない単身高齢者などに広く門戸を開いているのが「ケアハウス」です。月額利用料は数万円から15万円ほどですが、入居の場合には入居一時金などが必要になる場合もあります。

公的施設以外にも民間の施設がたくさんありますが、利用料はピンキリ。「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」「グループホーム」などさまざまです。

“議員のツテ”が介護の役に立つことも

ではいったい、どこの老人ホームがベストなのか。インターネットやパンフレットで情報を集めてみても、なかなか内部事情まではわかりません。なかには入居者が極端に少なく、サービスもよくない施設もあるようです。

できるだけ口コミ情報を集めることが重要です。一番いいのは、施設の近くに住んでいる同級生。すでに親の介護の問題に直面し、施設に入れている人なら、そのあたりの事情にも詳しいはずです。クラス会や同窓会などで情報収集をしてみるといいでしょう。

それから私がおすすめするのは、地域のことをよく知っている「市区町村議会の議員」。市区町村の議員は、有権者の相談に親身になって乗ってくれます。地域の情報に精通しているし、行政サービスにも詳しい。

役所の職員に相談しても、聞かれたサービスについては答えてくれますが、聞かれていないサービスまで教えてくれることはなかなかありません。仕事をできるだけ増やしたくないというお役所仕事の傾向はいまだにあります。

その点、市区町村の議員は親切に教えてくれます。もし何らかのコネクションがあるのであれば、市区町村の議員にアドバイスを求めるのが一番いいでしょう。

相談できる人、相談できる窓口を事前にたくさん確保しておけば、いざ介護になってもあわてなくてすみます。

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞