30年の低成長にあえぐ日本が実は「世界の最先端」だと言える理由

マルクス

昨今関心が高まっているマルクスの『資本論』。広がる格差やこれからの働き方への不安を抱える人が増えていますが、『資本論』にはそういった問題を深く考えるためのヒントがたくさん書かれています。経済学博士の的場昭弘さんとジャーナリストの池上彰さんとの白熱対談から、資本主義の行く末とこれからの働き方について考えます。

日本は「ポスト資本主義」の先駆者!?

的場 日本の資本主義が揺らいできているのは確かですが、だからといって、これから資本主義はどこに向かうのか。その命題に答えを出すのはひじょうにむずかしいことです。

ただ、日本がある意味、資本主義の先駆者であるということはいえると思います。GDPは停滞しているし、経済発展も滞っていて、何もかもダメな現在の日本がどうして先駆者なのかというと、実はそのダメな部分にこそ資本主義の未来が見えるからです。

つまり経済成長がゼロになり、社会が停滞するという、あたかも資本主義の行きつく先に直面した最初の国が日本なのです。日本の資本主義は停滞しているがゆえに、先駆となり、世界の未来を指し示しているといえます。その一つがバブルの崩壊です。日本のバブルの崩壊をしっかり分析していれば、その後の世界的バブルの崩壊は防げていたかもしれません。

もう一つ重要なことは、リーマンショックという世界的バブル崩壊後は多くの国で高成長していないということです。バブル以前とバブル以後、元に戻らない崩壊があるということを日本の事例が教えてくれているわけです。

今回のコロナの拡大にも同じことがいえます。多くの人が、コロナの感染が収まれば、やがて元の社会に戻るだろうと思っていますが、果たしてそうでしょうか。コロナが根絶されることはなく、これからも共存していく時代が続くかもしれません。

そうなると、いままでとはまったく違ったポストコロナ社会を生きていかなければならない。これほど環境に負荷を与えるものとどのように付き合いながら生きていくか、きわめて注意を要する経済体制をとらなければいけなくなるかもしれないんです。

「ポスト」という言葉には、前と後ではまったく内容が異なるという意味合いも含まれています。そう考えると、現在の日本も、これまでとはまったく異なる「ポスト資本主義」に進んでいるのかもしれません。そうすると、現在の経済的停滞は、ひじょうに深い意味をはらんでいる可能性があります。

世界中が日本の動向に注目している

池上 日本は資本主義の最先端をいっているというお話がありましたけど、海外では「ジャパニゼーション」という言葉が使われているんです。「日本化」という意味ですが、どういうシーンで使われているかというと、アメリカにしてもヨーロッパにしても、デフレが続いてゼロ金利政策を延々と実行しているにもかかわらず、いっこうにインフレにならない。あれ、これはかつて日本が体験してきたことと同じじゃないか。ゼロ金利をダラダラと続けやがってとバカにしていたけど、結局日本と同じ道をたどっているんじゃないかというわけです。

米FRB(連邦準備制度理事会)のベン・バーナンキ前議長は、議長になる前、日本の金融政策を厳しく批判していました。「ゼロ金利政策を続けているにもかかわらず、延々とデフレを続けて何をやっているんだ」といっていたんです。ところが、アメリカの金融政策のトップであるFRB議長に就任してゼロ金利政策をとらなければいけなくなったとき、彼は「日本に謝りたい」といったのです。日本を批判してきたが、アメリカも同じ政策をとるしかなかったのです。

的場 これまでの経済学では恐慌が起きてデフレになると、通貨量を増やして経済を活性化させるという伝家の宝刀がありました。ゼロ金利政策はまさに資本主義経済学の伝家の宝刀です。日本はその刀を抜きましたし、アメリカも抜いた。ところが、現在のデフレにはまったく効果がありません。バーナンキはそれを日本の状況を見て学びました。また、ノーベル賞を獲った有名な経済学者も、日本の政策についてあれこれ批判しましたが、アメリカのデフレには有効な手段を示せていません。

池上 アメリカはバイデン政権になって、必死にインフレにしようとしています。たくさん公共事業を打って、経済を活性化しようとしていますが、これはちょっと前のアベノミクスと同じですよね。そうしたことを見ると、やはり日本の資本主義は先に進んで、最先端であるがゆえの様々な問題に直面している、ともいえるのだと思います。

そうなると、厳しいのはまったくモデルがないことですね。これまでは、アメリカなりイギリスなり、資本主義先進国が通ってきた道を追随することができました。要するに、彼らがやってきたことをマネすればよかったわけです。

ところが、日本が資本主義の最先端にきてしまうと、マネすべきモデルがありません。モデルがないどころか、逆に世界中が現在の日本に注目しています。資本主義が行き着くところまで行ってしまった現在の日本が、経済発展しなくても幸せな国を作れるのかどうか、世界はかたずを飲んで見守っているのです。

資本主義でも社会主義でもない道は見つかるか

的場 資本主義はこれまで発展と成長の中で進化してきたわけですが、発展しない資本主義がありえるとしたら、それはどのように機能するのか。まさにいま日本はその実験を行っています。

世界の主流の学者は、まだ成長できる余地はあると考えていますが、世界中が日本と同じ状態になったら、もしかすると成長しない経済が一般化するかもしれません。そうなると、これをどう機能させていくかということですが、おそらく資本主義は機能しなくなるでしょう。資本主義は資本の増殖が前提ですから、それができなくなった瞬間に終わりを迎えます。

日本経済の未来は、いち早くそういう状態になるかもしれません。まだ誰も経験したことがない状況ですから、現在の経済システムが永遠に続くだろうという発想の中で、期待感を描いていますよね。

一つのシステムが限界を迎えても、それをバージョンアップした次の展開が来る。そう思われていますが、前のシステムを継続しない断絶を迎えるかもしれません。社会主義革命がまさにそうでしたし、その社会主義が崩壊して資本主義に変わるときも、継続ではなく断絶でした。

最近の若者たちは物欲や所有欲、出世欲が薄いなどといわれていますが、そのような価値観や働き方、労働のあり方は、我々の世代との断絶を表しているのかもしれません。私たちオールド世代からすると理解できない価値観が生まれ始めている可能性もあります。

いずれにしても、今後若い世代が考えていくことになると思いますが、そのときはもう新しい働き方が主流になっているかもしれません。

 

PROFILE
的場昭弘

1952年、宮崎市生まれ。哲学者・経済学者。神奈川大学副学長。著書に、『いまこそ『社会主義」』(池上彰氏との共著・朝日新聞出版)、『未来のプルードン』(亜紀書房)、『超訳「資本論」』全三巻(祥伝社)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』(光文社)など多数。