無印良品の「コオロギせんべい」!? 知っておきたい昆虫食の世界

昆虫食

これから世界が直面するであろう人口爆発に伴って、食料問題が地球規模での重要課題になることは間違いありません。人類が初めて直面するこの危機を逃れるには、食料生産のあり方を見直す必要があります。その手立ての一つとなりそうなのが、古くて新しい食材である「昆虫」。肉や魚に続く価値の高いたんぱく質源として、じつは近年、世界的に注目されているのです。

きっかけは国連関連機関の推奨

2013年、国際連合食糧農業機関(FAO)がある報告書をに公表した。そこでは、食料問題の解決策のひとつとして昆虫食を奨励し、家畜の飼料としても活用できると述べられている。

確かに、昆虫食にはメリットが多い。なかでも大きな利点が、環境にやさしいということだ。牛肉を生産するためには大量の穀物などの飼料が必要だが、昆虫なら牛の4分の1ほどの飼料で同じ量のたんぱく質を生産できる。

ほかにも、生産で発生する温室効果ガスが家畜と比較にならないほど少ない、飼育するのに畜産のような広大な土地を必要としない、乾燥に強い種類は水をそれほど与える必要がない、廃棄物や堆肥といった安価なエサで育てることが可能、といったように環境に対する負荷が家畜よりもずっと小さくて済む。

昆虫食は健康的な食材でもある。良質なたんぱく質が含まれるのはもちろん、鉄や銅、マグネシウム、マンガン、亜鉛といった微量栄養素の供給源となるからだ。病気に対する安全性も高い。畜産や養鶏の場合、危険なウイルス病や牛海綿状脳症(BSE)など、動物から人間に感染する病気の発生源となる可能性があるが、昆虫ならそういった危険性は非常に低い。

ただし、アレルギーの研究については進んでいない、ということは頭に入れておきたい。昆虫食は甲殻類アレルギーに似た症状を引き起こす可能性もあるので、この点には注意が必要だ。

昆虫は体がとても小さいことから、加工がしやすいのもメリットだ。そのままの状態で食用とするだけではなく、粉末やペースト状にするのが簡単なので、さまざまな利用の仕方が考えられる。この汎用性の高さに注目し、これまでにない商品を開発しようとしているスタートアップ企業や食品加工メーカーが少なくない。

無印良品が徳島大学と開発した「コオロギせんべい」

昆虫を食べる。こう聞くと、いわゆるゲテモノ食いの類だと思う人もいるだろうが、それほど突飛な話ではない。

日本では昔から、農村地帯を中心にハチの子やイナゴなどを食べてきた歴史がある。特に長野県では食文化のひとつとして受け継がれ、水生昆虫のザザムシ(主にトビケラの幼虫)など、ほかの地域では食用とされない昆虫もたんぱく質源としてきた。

しかし、いまの日本で改めて注目されている昆虫は、これまで食べる対象にされてはいなかった。タイなどの東南アジアで、ポピュラーな昆虫食の食材にされてきたコオロギだ。

コオロギが利用されるようになった理由のひとつは栄養価の高さ。時代が求める高たんぱく質低糖質の食材で、100グラム当たりのたんぱく質の量は60グラムと、牛肉や豚肉などの3倍近い。

雑食性で育てやすいということもメリットのひとつ。昆虫には特定のエサしか食べない“偏食”のものも多いが、コオロギの食性は非常に幅広く、廃棄食品を使って飼育する方法も考えられる。

約35日で成虫になるなど、昆虫のなかでも成長スピードが速いのも利点だ。現在、多く利用されているのは、熱帯性のフタホシコオロギという種類。温度管理さえしっかりすれば、年間通して繁殖させることが可能なので生産性も高くなる。

そして、コオロギはじつは味も良く、食べるとエビのような香ばしい風味を感じる。食材とするのだから、この点は何よりも重要な要素だ。

こうした理由から、日本では近年、コオロギの利用が盛んになりつつあるわけだ。しかし、東南アジアの利用法とはまったく違う点がある。それは姿かたちを活かした丸のまま使うのではない、ということだ。

昆虫食に抵抗感がある人は多く、ましてや日本ではもともとコオロギを食べる習慣がない。タイの屋台のように、まるごと唐揚げにしたものが皿に盛られても、圧倒的多数の人は食欲が湧かないはずだ。

そこで、フードテックとしてのコオロギの利用法は、粉末にしたものを使う手法が取られている。最も知られている商品が、大手小売りの無印良品が2020年5月から販売している「コオロギせんべい」だ。当初、ネットストア限定だったが、その後、全国各地の店舗で販売されるようになった。

コオロギせんべい

材料を事前に教えずに、この「コオロギせんべい」を食べてもらうと、多くの人は「エビせん」だと思うという。やはりコオロギの食味はエビに似ているのだ。

無印良品の商品開発に協力し、コオロギの粉末を提供したのは、徳島大学発のスタートアップ企業であるグリラスだ。CEOの渡邉崇人博士は食用コオロギ研究の第一人者。グリラスでは世界最先端のバイオサイエンス技術を応用し、コオロギが日常的な食の選択肢のひとつになることを目指して取り組んでいる。

コオロギの粉末を利用したものでは、ODD FUTURE(オッドフューチャー)、バグモなど複数のスタートアップ企業が、たんぱく質豊富なプロテインバーといった斬新な商品を開発。各社、食べやすさを演出するため、チョコレート味や抹茶味にするなど工夫を凝らしている。

栄養価の高さと利用しやすさを兼ね備えているコオロギは、地球が直面する食料難をやわらげる手段になるかもしれない。

ユダヤ教で唯一、食べてもいいとされる昆虫がバッタ

日本の農村地帯などではイナゴを佃煮にする習慣があるが、その近い種類であるバッタを使った食品が海外で開発された。

目をつけたのは、イスラエルのスタートアップ企業であるハーゴル。バッタの栄養価の高さに注目し、持続可能な利用の仕方をするために、バッタ農場システムを開発して生産をスタートした。

なぜイスラエルの企業がバッタを利用しようと考えたのか、そこには宗教にもとづく確かな理由があった。

ユダヤ教には食事に関する「コーシャ」という規定がある。イスラム教の「ハラール」フードのようなもので、食べていいものと食べてはいけないものが厳密に区別されているのだ。

コーシャの考え方では、①適切な動物(きよい動物)、②適切な屠殺方法、③適切な調理方法、以上3つの規定を満たしているものだけを食べていいとされている。バッタはコーシャで許されている唯一の「食べていい昆虫」なのだ。

バッタを食べている地域は意外なほど多く、アジアやアフリカ、中東などで古くから食用とされてきた。こうした食文化を見ると、バッタの商品化というのは、それほど突飛な発想ではないのかもしれない。

とはいえ、イナゴの佃煮のような姿かたちがわかる商品では、大きなビジネスにはなりがたい。そこでハーゴルでは、ほかの多くの昆虫食のスタートアップ企業が手掛けているのと同じく、粉末に加工したプロテインパウダーとして打ち出している。

ホームページでは、「昆虫養殖は牛の飼育よりも環境にやさしい」「バッタは食料危機に応える可能性がある」「将来の主食であることが証明されるかもしれません」などとうたっている。

 

 

PROFILE
石川伸一

宮城大学食産業学群教授。東北大学大学院農学研究科修了。北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現職。専門は、分子調理。関心は、食の「アート×サイエンス×デザイン×テクノロジー」。著書に『「食べること」の進化史』、『分子調理の日本食』、監修書に『食の科学』、『フードペアリング大全』などがある。