うつやPTSDとはどう違う? 最近よく聞く「適応障害」の基礎知識

最近では女優の深田恭子さんが発症した病気として知られている「適応障害」。……でも、うつ病やパニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)との違いがわかりにくいため、この病気の正体をうまく説明できる人は少ないのではないでしょうか? 精神科医の岩波明先生に、適応障害の基本的な知識を教えていただきました。

適応障害ってどんな病気?

著名人の例が印象的なため、「適応障害は著名人がかかりやすい病気?」という偏見を持たれている可能性があります。

でも本当は、適応障害は、誰もが発症するかもしれない病気です。それどころか、「多くの人が適応障害を経験済み」といっても、実は言い過ぎではありません。

適応障害とはどんな病気なのでしょう。適応障害は、就職や異動、進学、結婚、離婚といった環境の変化によるストレスが要因で発症する病気です。不安や抑うつ、焦りなどが強くなり、そのせいで社会生活にも支障を来します。

身体の症状も表れます。不眠、食欲不振、めまい、吐き気、頭痛、肩こりなど、人によってさまざまな不調を訴えます。こうした症状だけに注目するなら、適応障害に特有のものは見られません。よく知られている「うつ病」に、とてもよく似ています。

WHO(世界保健機関)が発表した精神疾患の国際分類である「ICD-10」には、適応障害の症状についての分類が記載されていますが、その主なものは以下の3つになります。

  1. 短期抑うつ反応―1ヶ月を超えない軽い抑うつ状態のこと
  2. 遷延性抑うつ反応―ストレスに満ちた状況へ長期間さらされることで生じる、軽い抑うつ状態。その症状の持続は2年間を超えない
  3. 混合性不安抑うつ状態―不安症状と抑うつ症状の両方があるケース

 

簡単にまとめるなら、適応障害は「不安と抑うつが主な症状」で、しかし「症状は長く続かない」のが特徴だということです。

うつ病とは異なっている適応障害の特徴は、むしろ症状の原因にあります。ICD-10には、次のように記されています。

「重大な生活の変化やストレスに満ちた生活中の出来事に対する、適応の時期に発生する。個人の素質や脆弱性は発症の危険性と症状の形成に大きな役割を果たしているが、それにも関わらずストレッサーなしにはこの適応障害は発症しなかったと考えられる」

表現が少し硬く、わかりにくいですね。ポイントは「適応障害は明らかなストレスが原因で発症する病気だ」ということです。症状は似ていても、ストレスとは関係なく発症することがあるうつ病とは違い、適応障害は特定のストレスがきっかけで発症します。

そして、適応障害のもうひとつの特徴は、発症の原因となったストレスが取り除かれると、多くの場合、症状が収まることです。

例えば、「会社の業務になじめず発症→部署を異動したら改善」といったことがよくありますし、「職場ではうつ状態なのに、プライベートではウソのように元気に遊び回っている」人も、中にはいます。

といっても、現実にはすぐに取り除けないストレスも少なくないため、油断はできません。また、ストレスが取り除けず、症状が慢性化するようだと、うつ病と診断されることもあります。

適応障害の経過は、全般に良好です。多くの患者は3ヶ月以内に、以前の状態に回復が可能です。ただ一部の人は、その後うつ病などの疾患を発症することがあります。またストレス因が長引く場合は、症状が持続することも見られます。

症状が遷延する(長引く)ケースと行動面の障害が見られるケースでは、経過不良なものが多いことが報告されています。

長期に経過を追跡した米国の研究では、適応障害と診断された成人の約30%にほかの精神疾患が合併するという報告が見られており、若年者ではさらに高い値が示されています。

合併する疾患としては、うつ病、アルコール・薬物依存、パーソナリティ障害などが主なものです。また希死念慮(「死んでしまいたい」と思う症状)を伴う比率も高いため、自殺企図には一定の注意が必要です。

また、入院治療を行った適応障害の患者を5年間フォローアップしたドイツの研究においては、91例中18例(19.8%)が再入院となり、9例(9.9%)の診断が変更されました。

その内訳は、5例が薬物依存、2例がうつ病、統合失調症とパーソナリティ障害が1例ずつであったと報告されています。

適応障害=はっきりとしたストレスを引き金に発症する「うつ状態」や「不安状態」のこと

適応障害は「軽いうつ」と考えていい?

適応障害=軽いうつ。そう理解していただいて、大きな間違いはありません。

医学的に正確な表現をするなら「なんらかのストレスがきっかけで生じる軽度のうつ状態。うつ病にくらべて比較的早期(通常6ヶ月)のうちに回復する」ものが適応障害だと言ってよいでしょう。

病院にかかるまでもなく、日常生活を送っているうちに元気になる人もたくさんいます。そのため、「適応障害を病気と呼んでよいのか?」という議論もあります。

前出のICD-10は、適応障害の症状面での特徴を次のようにまとめています。

  1. 現症としては主観的な苦痛、情緒障害の状態であり、通常の社会的機能と行為を妨げられる
  2. 過激な行動や突発的な暴力へと走りたくなる感情に襲われるが、それが実行されることはほとんどない
  3. これらの症状は他のより特異的な疾病診断を十分に正当化するほど重篤でも、また顕著でもない

 

また少し、わかりにくい説明が出てきたので解説を加えます。1の情緒障害とは、不安、抑うつ状態など、感情面での障害のことを指しています。

また「社会的機能と行為を妨げられる」とは仕事や家庭、学校での活動も影響を受ける、という意味です。しかし症状は重いものでなく、うつ病をはじめとするほかの精神疾患の診断基準を満たすほどではありません。

そのため適応障害には、「どの病気の診断基準も満たさないほど症状が軽い場合につける病名」という側面もあります。

「過激な行動や突発的な暴力へと走りたくなる感情」は自傷行為やオーバードーズ(薬の大量摂取)を指していますが、これもまず見かけません。適応障害の主症状が、うつや不安であることは間違いありません。

しかし、それはあくまで「うつ状態」であって、うつ病とは呼べないのです。適応障害を発症してからの経過についても、次のような定義があります。

  1. 経過については、発症は通常ストレッサーの発生から1ヶ月以内であり、遅くとも3ヶ月以内である
  2. 症状の持続は通常6ヶ月を超えない、遷延性抑うつ反応の場合も症状の持続は2年を超えない

 

このような定義があるため、適応障害と診断された人の症状が、その後重くなった場合は、「適応障害が重症化した」とは考えず「ほかの病気が発症した」と見なされます。例えば、発症してから2年を超えた抑うつ反応は、うつ病や気分変調症、と診断されるのです。

適応障害とは「軽いうつ状態」であり、発症しても通常6ヶ月以内に回復します

 

PROFILE
岩波明

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『他人を非難してばかりいる人たち』(幻冬舎新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)等がある。