「将来の夢」がない子に“自分に向いている職業”を意識させる秘策

将来の職業いろいろ

AIやロボットの登場で、今ある仕事の半分近くが遠からずなくなると言われています。それも理由の一つとなって、今の子どもたちは「将来は○○になる!」という明確な目標を持ちづらくなっています。それでも、大人の働きかけによって子どもをいい方向に導くことはできます。「21世紀型教育」について長年研究してきた石川一郎氏に、その具体的な方法を聞きました。

子どもが一番困る「将来の夢は何?」という質問

「あなたの将来の夢は何?」 よく大人は子どもにこんな質問をします。しかし、この質問にすぐに答えられる子はごくわずか。多くの子は「わかんな〜い」と答えに困ってしまいます。

一方で、「ユーチューバーになって、億万長者になりたい!」なんて答えが返ってきたら、親は「そんなこと、できるわけないじゃない!」と否定する。結局のところ、この質問からは会話が広がらないのです。

将来の夢がない―。大人からすると、なんだかもどかしく感じますよね。でも、それは夢がないのではなく、どう答えていいかがわからないだけということも考えられます。

昔はこの仕事に就けば、このくらいの年収がもらえて、このくらいの年齢で家を買って……と、自分の将来をある程度イメージすることができました。「大人になったときのために、今は一生懸命勉強しよう!」と夢に向かって頑張ることができたのです。

でも、今はAIの登場でいろいろな仕事が淘汰されています。そもそも目指している仕事が将来残っているかどうかもわかりません。そのため、将来から逆算して今やるべきことを考えるのが難しくなっているのです。

マインドマップで「好き」から世界を広げていく

しかし、「好きなこと」から発想を広げていくことはできます。マインドマップというツールをご存じでしょうか? 頭の中で考えていることを整理したり、連想させたりして思考を広げていくツールです。

マインドマップはビジネスで新企画や新商品を開発するなどいろいろなことに使えますが、夢や目標を見つける手助けもしてくれます。

これはある高校生のマインドマップで、進路を決めるに際して、「自分は何を学びたいのか」を探るために書いたものです。

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マインドマップの例

「学びたいこと」というテーマを中心に置いて、そこから自分のやりたいことを好きなだけ書いていきます。この生徒は、「幼児教育」「保健」「看護」の3つをあげました。その中からどんな仕事があるかを書き出していきます。

たとえば「幼児教育」に関する仕事がしたければ、保育士になる道と幼児心理を研究する道があります。

でも、自分は実際に子どもと触れ合うのが好き、触れ合いたいと思ったなら保育士を選択します。そして、保育士になるにはどんな力が必要なのか、自分だったらどんなことをやりたいのかを考えていきます。

マインドマップは答えを出すものではありません。あくまで思考を広げる手助けをするもので、最終的に決めるのは自分自身です。高校生であれば世の中にはどんな仕事があって、どんな専門性が必要なのかは自分で調べることができるでしょう。そうやって思考を広げていきます。

では、小学生以下の子どもにはできないのかといえば、そんなことはありません。具体的にどんな道へ進むかは決められないかもしれませんが、自分の好きなことがどんな世界へ広がっていくのかを実感することはできます。小学生以下の子どもの場合には、大人が声かけをして思いを引き出し、導いてあげるといいでしょう。

たとえば「あなたはどんなことをやっている時間が好き?」と聞いてみたところ、「ゲームしているとき」という答えが返ってきたとします。そうしたら「ゲームをしていると、どんなことがおもしろいの?」と、楽しいと思うポイントを聞いてみます。

うまく答えられないかもしれませんが、小学生でも高学年以上になれば「場面がどんどん変わって、達成できるのが楽しい」などと答えてくれるでしょう。

そうしたら、「そうなんだー。そういうのが楽しいんだね。じゃあ、どういうときに場面が変わるの?」「どういうシーンだと『ここではやめられない』って思う?」と、さらに細かく聞いてみます。

すると、大抵の子どもは自分の好きなことなので、どんどん答えてくれます。そうやって、子どもの好きなことについて、あれこれ聞いてみます。話を広げてから、「ゲームってどうやってつくるんだろうね?」とつくる側をイメージさせる質問をしてみます。

すると、「たしかに、ゲームってどうやってつくるんだろう?」「どんな人がつくっているのかな?」「自分だったらこんなゲームをつくってみたいな」「どうしたらゲームをつくる人になれるのだろう?」と、自分の好きなことと仕事をつなげて考えるようになります。

まずはそうやって、大人が子どもの興味を広げる手伝いをしてあげるのです。将来の夢をゴールから逆算するのではなく、「好きなこと」から広げていくという発想です。

好奇心は何歳になっても残っている

AIやロボットの登場で、これからは、AIより効率よく働けない人は必要とされなくなってしまうかもしれません。そう聞くと、なんだか怖い社会だなと不安に思うかもしれませんが、すべての仕事がAIに奪われてしまうわけではありません。

AIは単純作業や大量のデータを高速で処理することは得意ですが、まったく何もないところから新しいものを生み出したり、人の気持ちをくみとってよりよい方法や対策を考えたりすることはできません。これらは、人間にしかできないことなのです。

そうしたことを行うために必要なのが、2020年から導入された新学習指導要領にある「思考力」「判断力」「表現力」です。これらの力を伸ばすために教育の中身が変わり、入試の中身が変わったのです。

これらの力を伸ばすうえで欠かせないのが、「なぜだろう?」という問いです。幼い子どもは好奇心が旺盛で、見るもの、聞くもの、触るものすべてに興味を示します。そして、言葉が話せるようになると、「これは何?」「なんで○○なの?」「どうして?」と質問をくり返します。

はじめはそんな子どもの姿を愛おしく思い、丁寧に相手をしてあげるのですが、ありとあらゆることに対して質問してくるので、次第に大人は答えるのが億劫になったり、忙しいのを理由に相手にしなくなったりしてしまいがちです。

すると、「知らないことを聞くのはよくないことなんだ」「疑問に思っちゃいけないんだ」と思い込み、好奇心の蓋を閉めてしまいかねません。そして、だんだん物事に対し疑問を持たなくなり、考えることをしなくなります。そうなってしまうと、新しいものを生み出したり、問題解決をしたりといった人間にしかない力を伸ばしていくことはできません。

そうならないためには、何歳になっても子どもの「問い」に向き合うことです。なかには答えられない質問もあるでしょうが、そんなときは「なんでだろうね〜。どうしてだと思う?」と逆に聞いてみるのもいいでしょう。

おもしろい答えが返ってきたら、「それはおもしろい考えだね!」とほめてあげると、考えることの楽しさを感じて、前向きにとらえるようになります。わからないことは質問していいし、自分で考えてみてもいい。この絶対的な安心感を与えることが大切です。

一緒に調べてあげると、「わからないことがあったら調べればいいんだ」ということがわかり、「わからない」をそのままにしなくなります。また、調べることで理解を深めたり、新たな疑問が生まれたりします。それをまた調べて、をくり返すことで好奇心のループが生まれるのです。

小さいころはいろいろなことに興味を示していた子どもも、大きくなるにつれて「僕はこれが好き」「これはあまり関心がない」など、好き嫌いが出てきます。そしたら、その「好き」をどんどん伸ばしてあげてほしいと思います。

これからは、自分の「好き」を見つけた子が輝ける時代になります。スマホやインターネットでいくら情報をたくさん得ても、それは「みんなが知っていること、みんなができること」で特別に重宝されることはありません。

でも、みんなが知らないことを知っていたり、みんなが思いつかない発想ができたりする人は、“特別な武器”を持っていると言えます。そして、その力が必要とされる場所は必ずあります。子どもの「好き」を伸ばしてあげることが、わが子の人生の幸せにつながっていくというわけです。

 

PROFILE
石川一郎

「聖ドミニコ学園」カリキュラムマネージャー、経済産業省「未来の教室」教育コーチ、知窓学舎ミドルアウトマネージャー。専修大学北上高等学校理事。「21世紀型教育機構」理事。1962年東京都出身、暁星学園に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。元かえつ有明中・高等学校校長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社)、『2020年からの新しい学力』(SBクリエイティブ)などがある。