“うつ未満”の心の不調に陥ってしまったら? 自分でできる対処法

最近では女優の深田恭子さんが発症した病気として知られている「適応障害」。しかし、うつ病やパニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)との違いがわかりにくいため、この病気の正体をうまく説明できる人は少ないのではないでしょうか。また、もし自分や身近な人が適応障害だと診断されたら、どうすればいいのでしょう。精神科医の岩波明先生に教えていただきました。

ストレスから距離を置くことが最優先

適応障害とは、就職や異動、進学、結婚、離婚といった環境の変化によるストレスが要因で発症する病気で、「不安と抑うつが主な症状」です。しかし、症状はあまり長くは続きません。

「うつ病」にとてもよく似ていているので、わかるようでわからない、という印象かもしれません。何しろ、うつ病との違いがわかりにくいのです。そこから、適応障害=軽いうつと理解していただいて、大きな間違いはありません。

では、適応障害になったら、どのように対処すればいいのでしょうか?

ほとんどの適応障害の患者さんは、何がストレスとなって発症したのか自覚しています。例えば「上司の叱責が原因」だとわかっているなら、人事に相談して異動願を出す等の対処ができます。業務内容そのものがストレスなら、転職も選択肢のひとつでしょう。失恋の痛手を受けたとしても、時間の経過とともに、ストレスは和らいでいくものです。

裏を返せば、原因となったストレスから距離がとれないと、根本的な治療は難しいといえます。薬物治療などで一度はよくなっても、そもそものストレッサーを取り除かない限り、再発する可能性が高いままです。

例えば、パワハラ上司の叱責を長期間にわたり受け続けたことが発症の原因なのだとしたら、上司が替わるか、本人が異動しない限りは、ストレスは続いてしまいます。引き続き上司の隣で働き続けないといけない環境では、回復は期待できません。

そのため現実問題として、職場でのストレスが発症の引き金になった場合では、「同じ職場環境で働きながら治す」のは難しいと思います。

そこで出てくる有効な選択肢が「休職」です。物理的に職場から距離をとり、十分に休養すれば、少なくとも職場内のストレスを原因とする適応障害は、快方に向かいます。また、その間に会社側も環境改善に動くことができます。

そのために私たち医師も「1~2ヶ月の休職を要する」「復職にさいしては配置転換の考慮を要する」といった内容の診断書を書くわけです。

さまざまな事情から休職が無理なら、勤務時間の短縮をすすめる診断書を書くこともあります。具体的には、残業や深夜業務の禁止、時短勤務などです。

なお、私が休職をすすめるケースでも、最初は2週間~1ヶ月の短期間からです。その後は回復具合をみながら、復職するか、休職を続けるか、検討します。

思うように回復せずに、結果的に休職が1年間に及ぶことになるかもしれませんが、いきなり長期の休職をすすめることはありません。仕事内容や経済的な事情にも配慮が必要ですし、復帰が難しいと見なされて患者さんが職場で厳しい立場に立たされるリスクも避けたいからです。

「十分な休養」も特効薬になる

ストレスから距離を置きつつ、生活改善、精神療法、薬物療法を併用して、症状の軽減を目指していく。これが適応障害の治療の基本方針です。

私からは、まず休養を十分にとるようおすすめします。休養といっても、特別なことをする必要はありません。入院患者のように「何もせずベッドで横になる」のも、かえってストレスがたまります。

むしろ、普通の暮らしがいいのです。ただでさえ、会社や学校に行かなくなると、生活のリズムが乱れやすくなります。

起床したら朝日をあびる、適度な運動をする、お酒はほどほどに、夜ふかしをせずに睡眠をしっかりとるなどして、規則正しい生活を意識しましょう。すると、自律神経のバランスも整います。

休養のさいに心がけたいのは、「治そう、治そう」と焦って欲張らないことです。適度に活動し、適度に休みながら、心身の回復を待つ、ぐらいにのんびり考えておくのがよいと思います。

適度な運動もすすめられますが、あくまで「適度」であることが大切です。特に「このスポーツがいい」というものもありません。ちょっとした散歩程度の運動で十分、心にも身体にもよい効果があります。クタクタになるほどの激しいスポーツは、怪我をする危険もありますし、かえって逆効果です。

うつ病の予防や治療に運動が効果的であることは、さまざまなデータが示しています。

例えば、有酸素運動の量によって被験者114万人以上を3つのグループに分け、それぞれを比較したところ、運動量がもっとも少なかったグループは、運動量がもっとも多いグループよりも、うつ病になる確率が約75%も高かったという報告があります。

「パーッと気分転換」は逆効果

心がけるのは、規則正しい生活と、適度な運動。逆にいうと、激しい運動や、「気分転換」と称して旅行に出かけたりするのは、避けた方がいいでしょう。

繰り返しますが、適応障害の予防や治療には、休養がなによりも有効です。適応障害は、心身が衰弱している状態ともいえます。人間の活動に必要なエネルギーそのものが、落ちているのです。

そんな状態では、元気なときならよい息抜きになることが、かえってストレスになりかねません。「家でじっとしていなさい」とまでは言いませんが、無理な気分転換は逆効果だということです。

失われた心身のエネルギーを回復するためには、根を詰めるような作業や、健康な時に楽しんでいた趣味も、しばらく控えていただきたいと思います。旅行や負担のかかるレジャーは、かえって状態を悪化させてしまうことがあるのです。

これは、適応障害の患者さんの周囲にいる人たちにも、心がけてほしいことです。善意からかもしれませんが、「皆でパーッと騒げば気持ちもスッキリするよ」「休養も飽きたでしょう。たまには遊びに行こうよ」と遊びに連れ出したり、お酒を飲ませて騒いだりしないことが大事です。

適応障害の患者さんには、それ自体がストレスになります。羽目を外しすぎてトラブルでも起こそうものなら、よけいに症状を悪化させるだけです。

元気なときには、見知らぬ土地に旅行に行くことは新鮮かもしれませんが、体調の悪い時期には、むしろ負担にばかり感じられます。

思い切り遊ぶのは、十分に睡眠をとり、のんびりして、元気を取り戻してからにしましょう。遊びと休養は分けるべきです。

「お酒」はうつの天敵

ストレス解消法の代名詞である「お酒」も、実はうつの天敵です。第一に、アルコール自体にうつ状態を引き起こす性質があります。落ち込んだ気分を和らげるためにお酒を飲む人が多いですが、その効果は一時的なもので、逆にアルコールの作用としてうつを誘発したり、悪化させたりする恐れがあります。

「お酒を飲んでストレス発散」どころか、「お酒を飲むからうつになる」のです。

実際、うつ病患者の少なくない割合が、アルコールの問題を抱えています。うつ病が悪化すれば、さらにアルコールの量が増えるという悪循環も、よくあるケースです。

「そこまで大量に飲んでいないから」と、油断はできません。少量のお酒でも、それを
毎日続けていたら、立派なアルコール依存症予備群です。

「1日に日本酒2合」なら一般的には大酒飲みではないですが、十数年続けたことでアルコール依存症になった患者を知っています。

また、よい睡眠にとっても、アルコールは天敵です。特別「お酒好き」ではなくても、寝つきをよくするため、あるいは眠りを深くするために、少量のお酒をたしなむ方もいるかと思います。

効果がないわけではありません。寝つきは多少、よくなることでしょう。アルコールの麻酔作用によるものです。

ところが、メリットを上回るデメリットがアルコールにはあります。「お酒を飲むとすぐ眠れるけど、眠りが浅くなってしまう」のです。

それは、アルコールが体内で分解されるさいに発生する物質「アセトアルデヒド」が、覚醒度を高めるためです。また、アルコールの作用で尿がどんどん作られるために、夜中に目が覚めて、トイレに立つ機会が増えます。

このように、アルコールは睡眠全体の質を改善してはくれません。睡眠のためにお酒を飲むなら、睡眠薬を飲むほうが体にはいいぐらいです。

さらにアルコールは飲む量によっては、翌日に持ち越してしまいます。これもさまざまな症状を悪化させる原因になりかねません。

 

 

PROFILE
岩波明

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『他人を非難してばかりいる人たち』(幻冬舎新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)等がある。