「平均年収」で見るとダマされる! 格差社会でこそ注目すべきある指標

「数字に拒否反応を起こす」「難しい数式がわからない」「計算したくない!」、そんな人は多いと思います。でも、子どもから大人まで大人気の「数学お兄さん」が、身近にあるちょっとした疑問をネタに、数学の本当の魅力をわかりやすく解説してくれます。今回は、平均値の「だましテクニック」について。ある数字だけ見ると、日本の景気は上向きに見えますが、実はそこにはあるトリックが隠されているのです!

ニュースに違和感が生まれる、あるトリック

「日本の景気は上向き。日本人の平均年収も上がっています」

このようなニュースが報道されると、首をかしげたくなります。「私がいる会社以外の景気がよくなっているのかな。転職しようかしら」と思うかもしれません。ただし早まらないでください。実はこのニュースには、ある「平均」のトリックが隠されていたのです。

国税庁・民間給与実態統計調査(令和元年分)によると、日本人の平均給与は約436万円。この数字だけだと、「一般的には約436万円の年収がある」と思えます。

しかし図1を見ると、平均年収(400万~500万円)を稼ぐ層の割合は全体の約15%にすぎません。さらに、年収400万円以下の割合は全体の約54%で、年収300万~400万円層の割合が一番多いことがわかります。

図

平均年入は400万円以上なのに、実際には国民の半分以上が年収400万円以下なのです。この大きな違和感の原因こそ「平均値の落とし穴」です。なぜこのようなことになるのか、理由を考えてみましょう。

たとえば、ある地域に住む10人のうち9人が年収300万円で、1800万円を稼ぐ資産家が1人いるとします。単純に計算すると、この地域の平均年収は450万円になります。この地域で、年収450万円を目安としたさまざまな政策が行われていたとしたら、この地域の9人は納得できないでしょう。

この結果だけ見ても、「平均とは何か」がわからなくなってきそうです。

統計のどこに注目するか

統計を表した数字やグラフを確認するとき、「平均値」に注目しがちですが、他にも名前がついた指標があります。それは「最頻値」と「中央値」。これらに注目すると、より具体的に全体像が見えてきます。

最頻値とは、そのデータのなかでもっとも多く現れる値のこと。中央値とはちょうど真ん中の順位の値のことです。

前述のある地域では、最頻値は300万円、中央値は上から5番目の人の年収なので同じく300万円です。最頻値と中央値に注目することで、この地域の大多数の人が年収300万円という事実が見えてくるわけです。「平均年収450万円」から、大きく見え方が変わったのではないでしょうか。

最頻値、中央値、平均値などの指標は「代表値」とよばれ、全体の傾向をつかむうえで大切な視点です。中央値、平均値だけで安心してはいけません。最頻値をよく見ないと判断できないケースがあるのです。

「平均値」と「中央値」のワナ

さらにトリックの例をもうひとつ。

A地域、B地域にそれぞれ10人が住んでいます。合計の貯蓄額が5000万円、平均は500万円です。中央値は、A地域は300万円、B地域は400万円です。

平均値、中央値だけで判断すると、「そこそこ貯めているのか」と思われます。しかし、最頻値とその内訳を注目すると見方が変わるかもしれません(表)。

表

最頻値は、A地域では100万円が4人、B地域では600万円が3人だったのです。

平均値、中央値だけで判断すると、中身が見えてこないことがわかったのではないでしょうか。隠れた部分をしっかり確認することで、別の見え方ができるのです。

たった10人という少ない人数でさえ本質を見誤るのですから、全国民や世界を対象とした調査などはなおさら誤差や誤解が多く発生しそうですよね。

 

PROFILE
横山明日希

math channel代表、日本お笑い数学協会副会長。2012年、早稲田大学大学院修士課程単位取得(理学修士)。数学応用数理専攻。大学在学中から、数学の楽しさを世の中に伝えるために「数学のお兄さん」として活動を開始し、これまでに全国約200か所以上で講演やイベントを実施。2017年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催のサイエンスアゴラにおいてサイエンスアゴラ賞を受賞。著書に『笑う数学』(KADOKAWA)、『算数脳をつくる かずそろえ計算カードパズル』(幻冬舎)などがある。