昭和世代の親がやりがちな「AO入試=一芸入試」という大誤解

高校生

昭和の世代の大学受験といえば、本番一発で合否が決まる一般入試が主流。ほとんどの人はこの方式だったので、この世代にとっては、大学入試といえばどれだけたくさんの勉強をしてきたかという学力勝負のイメージ。「AO入試」(2021年からは「総合型選抜」と名称変更)には、少しネガティブな印象があるのではないでしょうか。しかし、これからは一般入試はさらに少なくなっていくと予想されています。「21世紀型教育」について長年研究してきた石川一郎氏に、大学入試の実際について聞きました。

一般選抜は親世代が思い描く大学入試のスタイル

これまで「AO(アドミッション・オフィス)入試」と呼ばれていた入試は、今後「総合型選抜」に、「指定校推薦」「公募推薦」と呼ばれていた入試は「学校推薦型選抜」に改名されます。

2020年の大学入試改革で、「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」の3つに整えられたのです。

つまり、今の大学入試は親御さんの時代とは大きく様相が異なります。現在の大学入試は3つの選抜から成り立っていることはすでに説明しましたが、実は私立大学においては一般選抜で進学する人は全体の約半分にすぎません。

残りの半数は高校での学習成果を重視する「学校推薦型選抜」や、大学での学びに対する意欲や適性を評価する「総合型選抜」で大学に進学しているのです。近年は、国公立大学でも「学校推薦型選抜」や「総合型選抜」の募集枠が増加傾向にあります。

2019年度の入学者選抜実施状況(2000年度との比較)

今後は国公立大学でも私立大学でも、これらの選抜方式で大学に進学する人が増えていくと考えられています。特に「総合型選抜」による大学進学は拡大していく傾向です。

大学受験のために努力を重ねて勉強をしてきた親御さんの世代からすると、「今の大学は、受験勉強をしなくても入れるからラクでいいなぁ」と感じるかもしれません。

親御さんの多くは第二次ベビーブームの前後の生まれでしょうから、子どもの数がとても多い時代でした。当時は1クラスに50人くらい子どもがいることも珍しくなかったはずです。

当時は日本経済が好調で、人々の暮らしは豊かになり、大学進学率も上がっていました。この時代の教育は、とにかく受験で勝てるように、知識をたくさん詰め込むことが重視されました。

子どもたちは「よりよい高校」、そして「よりよい大学」へと、人より少しでも抜きん出ることが求められました。高学歴であることが、将来の幸せを保証してくれる時代だったからです。

昔は「GMARCH」今は「ISMART」

偏差値による輪切り教育の全盛期でもありました。大学がA〜Fまでランキングされ、GMARCH(学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政)や日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)といった言葉が生まれたのもこのころです。

その後、少子化によって大学には入りやすくなりますが、大東亜帝国(大東文化・東海・亜細亜・帝京・国士舘)、成成明学独國武(成蹊・成城・明治学院・獨協・國學院・武蔵)といった呼び方も登場し、偏差値による輪切りグループは今も続いています。

近年はISMART(ICU[国際基督教大学]・上智・明治・青山学院・立教・東京理科)というグループもあります。

GMARCHや日東駒専という呼び名は知っていても、ISMARTは知らなかったという人も多いかもしれませんね。

こうしたグループ分けが存在するのは、昔も今も大学を偏差値帯で選んでいる傾向があるからでしょう。しかし、これからはこうしたグループ分けがなくなっていくかもしれません。これからは偏差値ではなく、「この大学でこれについて学びたい」という明確な意思と意欲が見られるようになるからです。

厳しい大学受験を経験している親御さんたちは、夢をかなえるには「とにかく努力することが大事」だと信じています。そうやって一生懸命に受験勉強をして希望の大学に入り、希望の会社に就職し、幸せをつかんだ人もいるでしょう。

しかし今の子どもたちは、少子高齢化やIT化、グローバル化など、親世代も経験していない未知の世界を生きています。昭和時代のように、「頑張れば夢はかなう」といったわかりやすい幸せのゴールがありません。努力だけでは通用しない時代なのです。

「AO入試=一芸入試」という誤解

こうしたことから、人よりも1点でも多く点を取って勝ち抜くという「知識を詰め込むだけの入試」は見直されることになりました。

それに代わって増えているのが、学ぶ意思と意欲を見る「総合型選抜」です。総合型選抜の前身であるAO入試を日本で最初に行ったのは慶應義塾大学です。1990年、暗記型の入試が主流だったバブル全盛期に、すでに未来を見すえていたのが慶應義塾大学の総合政策学部と環境情報学部、通称SFC(湘南藤沢キャンパス)です。

新キャンパスの開校と同時に導入されたこのAO入試は、アメリカをはじめとする海外の大学ではごく一般的な方式です。

慶應義塾大学は、これからの時代はグローバル化とIT化が加速していくと予測し、世界に通用する人材を育成するには大学入試もグローバル基準にすべきだと考えました。大学での学びも従来の一方通行型ではなく、学生自らが意欲的に学ぶ方式を導入します。

ところが同じころ、別の形のAO入試が登場します。亜細亜大学をはじめとする一芸一能を評価するタイプのAO入試です。「けん玉日本一」になった生徒が合格したことで話題になったのを記憶している人も多いのではないでしょうか。

慶應義塾大学も亜細亜大学も「従来の偏差値重視の入試から脱したい」という思いは共通していますが、選考の中身は大きく異なります。

亜細亜大学がAO入試を始めた本当の理由は、第二次ベビーブームが去って日本の少子化が進んだことで、大学の生き残りを視野に入れ、学力だけでなく、個性を評価した新しいスタイルの入試を導入して学生を確保したかったからです。

その後、同じレベルの大学やそれより下の大学でも、個性を重視したAO入試を導入するようになりました。少子化が進む中、そうやって学生を確保してきたのです。

個性を評価すること自体はいい傾向ですが、高校までの学力は一切関係なく、スポーツや芸能などで入学してきた学生の学力不足が懸念されるようになります。

こうした理由から、「AO入試は勉強ができない子を救ってくれる入試」「ラクに入れる入試」と、一部で言われるようになってしまいました。特に努力を重ねて一般入試で受験をした親御さん世代にその傾向が見られます。

しかし、それは大きな誤解です。AO入試とは、各大学で提示している「アドミッションポリシー」と学生の学びたいことが合致しているかを見極めるもの。つまり、そこには「学ぶ意欲」が不可欠です。つまり、AO入試(総合型選抜)こそが、これからの時代にマッチした入試なのです。

 

PROFILE
石川一郎

「聖ドミニコ学園」カリキュラムマネージャー、経済産業省「未来の教室」教育コーチ、知窓学舎ミドルアウトマネージャー。専修大学北上高等学校理事。「21世紀型教育機構」理事。1962年東京都出身、暁星学園に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。元かえつ有明中・高等学校校長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社)、『2020年からの新しい学力』(SBクリエイティブ)などがある。