コロナ後の学校における大問題! 先生と生徒の「デジタルギャップ」

ICT授業

学校教育において今回のコロナ禍で良かった点があるとすれば、なかなか進まなかったICTが一気に広がったことです。ただし、その導入が形だけになっていたり、学校が正常化すればまた元の形に戻ってしまったりすることも考えられます。「21世紀型教育」について長年研究してきた石川一郎氏に、ICT教育の現状と実際についてうかがいました。

授業以外の仕事で疲弊させられる先生たち

2020年からの新学習指導要領のスタートにともなって導入されている教科書では、思考を深めるためのさまざまな工夫が見られました。2022年からは高校の教科書の内容も変わります。

2020年度からは大学入試も変わりました。こうして見ていくと、この新しい教科書を使って学習していけば、これからの社会に必要とされる「思考力」「判断力」「表現力」が伸びていくだろうと期待が持てます。

しかし、私はそう簡単にはいかないだろうと考えています。なぜかというと、現場の先生たちがこの流れにまったく追いついていないからです。

まず問題なのが、先生の仕事の多さだと思います。「ブラック教員」「ブラック学校」という言葉を聞いたことはないでしょうか。2018年にOECD(経済協力開発機構)が、48カ国の中学校教師に勤務環境のアンケートを行った「国際教員指導環境調査」によると、日本の中学校教師の仕事時間は週56時間で、全体平均の38.3時間を大幅に超過していることがわかりました。

ところが、その中身を見てみると、授業にあてる時間は全体平均の20.3時間に対して、日本は18時間と少なめ。つまり、授業以外の仕事に多くの時間がとられているということです。

たとえば、週あたりの課外活動指導(部活動)時間は、全体平均の1.9時間に対して日本は7.5時間。一般的な事務時間は、全体平均の2.7時間に対して日本は5.6時間となっています。

日本では授業も学校行事も部活動も先生が担っていますが、他の国では、そもそも部活動というものがなかったり、あったとしても学校ではなく地域のクラブチームが担ったりしているため、先生は授業づくりに集中することができます。

ところが日本では、学校によっては平日の放課後はほぼ毎日部活動があり、部活動によっては土日も指導や大会があります。先生は休む暇もありません。

「生徒のため」が長時間労働につながる

このような状況で、さらに追い打ちをかけるのが保護者の対応です。現場の感覚からいうと、少子化で子どもの数が減ってきた20年くらい前から過保護な親が増えてきたように感じます。友達とトラブルがあったり、クラスの担任の対応が悪かったりすると、その都度文句を言いにくる親がいます。

以前は学校のことはある程度、先生に任せてくれていたところがあったと思いますが、近ごろは何でも学校に口出しをする親が本当に増えています。もちろん、学校に非がある場合はきちんと対応しなければいけませんが、そうではない理不尽なものもかなり含まれているのです。先生たちは、その対応で多くの時間がとられるようになりました。

また、高い授業料を払う私立の学校では勉強をしっかり見てほしいと、手厚いサポートを求める親が増えました。こうした要望に対応して、放課後や夏休みなどに補習や補講を行う学校が多くなりました。これらすべてを先生が請け負うことになったのです。

教師になりたいと思う人は、基本的に人の役に立ちたい、生徒たちの成長を見たいという気質があります。こうしたマインドがあるため、教師は「生徒のためなら」と頑張り、ひいては長時間労働を受け入れてしまうのです。「大変だけど、やらざるを得ない」というのが、今の学校の働き方になっています。

先生と生徒の間にある「デジタルギャップ」

また、「ICT活用の遅れ」も大きな問題です。近年、教育現場にタブレットなどのICTを促進する動きは出ていましたが、実際に十分なICT環境が整っている学校は私立学校でも約半数。残りは導入の途中段階という状態でした。公立の学校に関していえば、ほとんどがまだ手つかずという状態でした。

そんな中、コロナ禍でオンライン授業をやらなければいけない状況になり、多くの学校は混乱に陥りました。公立の学校に関しては、そもそも校内に通信環境が整っていなかったり、各家庭の回線速度の問題があったりと、ハード面を整えることから始めなければなりませんでした。

一方、私立学校では環境は整ってはいても、うまくいっていた学校と後れをとってしまった学校の二極化が見られました。うまくいかなかった理由として挙げられるのがICT担当者の不足です。私立、公立にかかわらず、多くの学校にICTの専門家はおらず、学校の中でパソコンに詳しい人がICT担当に任命されます。

しかし、この人たちもプロではありません。自分の仕事を抱えつつやっているので、すべての先生の質問に対応はできません。本格的なICT化を目指すのであれば、それを専門とする人の力を借りなければ難しいでしょう。

それ以前に、「教師のICTに挑戦するマインドの低さ」という問題もあります。20代、30代のデジタルネイティブ世代はICTの可能性を感じ、積極的に取り入れていますが、ベテラン教師はICTに関して腰が引けている状況です。

「やはり教育は対面に限る」「インターネットに頼らず、自分で調べるべきだ」などの理由をつけては、やらない方向へと持っていきたがります。

理由は、生徒に弱みを見せたくないからです。私もベテラン教師たちと同じ世代なのでよくわかりますが、教師になったころに先輩によく言われたのが、「生徒に一度なめられたら、二度と言うことを聞かなくなるぞ」ということでした。

生まれたときからインターネットがあったデジタルネイティブ世代を前に、慣れないパソコンを使っていたらバカにされるに違いない。そんなネガティブな気持ちが、前へ進むことを拒んでいるのです。

「自分が受けた教育は正しい」と思いたい教師のマインド

変化を嫌う学校の体質の根本にあるのは、「自分が受けた教育は正しい」と思いたい教師のマインドです。教師を目指す人に多いのは、学生のころ一人の教師に刺激を受けた、救われたなど、自分の経験を通じて「先生」という職業自体に思い入れを持つケースです。そのため、学校について考えるとき、自身が経験した範囲にしか想像が及ばないという傾向があります。

今の職員室を大きく分けると、50代以上の教師、40代の教師、20〜30代の教師という3世代の層が存在しています。私を含めた50代以上の教師は、高度成長期に学生時代をすごしています。みんながより高い目標に向かうことが良しとされていた時代なので、高校受験も大学受験もとても厳しかったです。

教師も、より高いゴールに向けて努力をさせるべきだと考えていました。そこで多少生徒を押さえつける形になったとしても、たくさん勉強をさせていたのです。いわゆる「詰め込み教育」です。

この時代に学校教育を受けてきた50代以上の世代は、努力をすれば報われるという経験をしている人が多く、今でも「努力が大事」と考える傾向があります。

40代の教師も基本的に同じような教育を受けているため、考え方は一致します。ただし、この世代の人たちは就職氷河期を経験しています。一生懸命勉強をしてきたけど、いざ自分たちが就職をするときになったらバブルが崩壊してしまった……。そのため、「努力をしても報われないこともある」ことを知っています。

20〜30代の教師は、ゆとり教育を受けていた世代からデジタルネイティブ世代まで幅広く存在しています。彼らは物心がついたときから低成長の日本で育っているので、その前の世代とはまったく違う感覚を持っています。ベテラン教師は「努力」という言葉を好む傾向があるのに対し、彼らは「自己肯定感」といった言葉を好みます。これは受けた教育の違いだと感じます。

職員室

このように、現在の職員室には異なる3つの世代が同居しています。そのため、何かを変えていこうというとき、なかなか意見がまとまりません。「いろいろな世代が混在しているのは企業も同じでは?」と思われるかもしれませんが、こと学校に関していうと、自分が受けてきた教育が授業の質にとても大きく影響するのです。

世の中が変わるにつれて、学校の教育も変えていかなければならない。頭の中ではみんなわかっていますが、具体的な対策を打ち出そうとするとなかなか意見がまとまらない。それが今の学校の実態なのです。

これからの教育で重要さを増すICTの活用

しかし、今回の学習指導要領の改訂で教科書と入試の中身が大きく変わったことで、いよいよ先生たちも本当に変わらなければならない状況になっています。

新しい教科書では「思考力」「判断力」「表現力」を伸ばす工夫が見られますが、教えなければならない知識もそれなりにあります。新しい要素が加わったことで、教科書はさらに厚みを増しました。知識は重要、「思考力」「判断力」「表現力」を伸ばすことも重要。これらをすべて教える先生たちは、大変だろうと思います。

なかには、「思考力を伸ばす学習は時間が余ったら」と考えている先生もいるかもしれません。教え方を工夫しなければ、すべてをカバーするのは難しいでしょう。そこで今後の活用が期待されるのが、タブレットや電子プロジェクターなどを使ったICT学習です。

今までの授業は、先生が黒板を使ってその日に教える内容を説明し、ところどころで生徒に質問をして答えさせたり、問題を解いたりして理解を深めるといったものでした。しかし、板書による説明は時間がかかります。特に図形などは見やすく描かなければいけないので慎重になります。

でもICTを活用すれば、授業のポイントを生徒のタブレットに表示させ、図形などはあらかじめ用意されたものを活用することができます。それによって、板書に取られていた時間を短縮することが可能です。

また、算数や数学の授業では先生の説明の後に問題を解くことが多いですが、生徒によっては簡単すぎて、みんなが解き終わるまで時間を持て余していることがあります。

1クラスに30〜40人の子どもがいれば、理解度がバラバラなのは当然のこと。特に公立校はみんなが理解できるように指導していくので、どうしても下のレベルの子に合わせて授業を進めざるを得ません。

でも、ICTを活用すれば生徒の理解度に合わせた問題に取り組ませることができます。理解できている子は先に進み、理解がまだ怪しい子は基本問題を解くことで理解を深めていく。個々の習熟度に合わせて学習ができる点も大きなメリットです。また、それを共有することで先生は生徒一人ひとりの学習の進み具合を把握することができます。

このように、ICTをうまく使うことで授業の効率化が進み、知識を教えたり問題を解いたりする時間を短縮することができます。そのぶん確保できた時間で、「思考力」「判断力」「表現力」を伸ばす学習をするというのが理想です。

 

PROFILE
石川一郎

「聖ドミニコ学園」カリキュラムマネージャー、経済産業省「未来の教室」教育コーチ、知窓学舎ミドルアウトマネージャー。専修大学北上高等学校理事。「21世紀型教育機構」理事。1962年東京都出身、暁星学園に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。元かえつ有明中・高等学校校長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社)、『2020年からの新しい学力』(SBクリエイティブ)などがある。