愛猫家の佐藤優さんが「猫は忠実で誠実である」と断言する理由

猫

猫といえば、気ままで人間に飼い慣らされない動物の代表格として語られることが多いですが、猫を多数飼っている作家の佐藤優さんは、「猫は人間より忠実だ」と断言しています。それには、どのような理由があるのでしょうか?

どんなに信頼関係が確立していても人間は裏切る

私は動物、特に小動物が好きだ。今まで飼ったことがあるのは金魚、ドジョウ、錦鯉、亀、鰻、文鳥、猫。そのうち、猫と文鳥が同じくらい好きだ。本当は文鳥も一緒に飼いたいのだが、わが家には猫がいるため文鳥にかかるストレスが大きい。そのため猫だけで我慢している。

「猫のどこが好きですか」という質問に対して、愛猫家はさまざまな答え方をする。「自由なところ」「飼い主のことを気にせず、マイペースで生きているところ」という意見が多いと思う。

私の場合は少し違う。私は友人に「猫の最大の美徳は、忠実で誠実であることだ」といつも強調しているが、私のこの発言に対して、猫好きの人でもちょっと首をかしげる。

「猫は飼い主にそんなに忠実でしょうか。うちの猫は自分に用事があるときしか寄ってきません。それ以外は、いくら呼んでも知らんぷり。それに、猫は人間がいるときはテーブルの上に乗りませんが、外出から帰ってくるとテーブルの一部分が温かくなっていて、猫の毛が落ちています。猫が誠実というのも、ちょっと違うと思います」というコメントを私にする人もいる。

しかし、猫が忠実で誠実であることは私にとって絶対的な真理だ。2002年5月14日、私は職場の外務省外交史料館(東京都港区麻布台)において、東京地方検察庁特別捜査部によって逮捕された。

容疑はイスラエルで行われた国際会議への公金支出をめぐる背任だったが、検察の目的は外務省と鈴木宗男氏をつなげる事件をつくることだった。結局、私が迎合的な供述をしないので、検察は宗男氏絡みの事件をつくることができなかった。

検察官による厳しい取り調べ、冷暖房がない独房での512日間の生活は、気合いを入れれば耐えることができた。

つらかったのは、外務省時代に信頼していた上司や同僚が検察に迎合して私を陥れる供述をし、それを供述調書で読んだときだ。人間は、どんなに信頼関係が確立していると思っていても裏切るのだということを実感した。

こういう供述をした人のほとんどは、私に対して悪意を持っていたわけではない。検察の激しい圧力にさらされたとき、人間には過剰迎合をしてしまうという性があるのだ。

獄中でのこの体験を経て、私の中で猫に対する信頼感が飛躍的に増大した。餌をやり、トイレの掃除をする飼い主との間で確立した信頼関係を、猫の方から裏切ることはない(人間は猫を捨てることがある。これは人間による猫に対する裏切りだ)。

どんな窮地に陥っても、猫が東京地検特捜部に駆け込んで、誰かを陥れる供述をし、調書に署名、押印することはない。私は全面的に信頼する猫たちと楽しく暮らしている。

世界基準で考えた“本当の友人”とは

このときの経験で、私はマスコミ関係者も信用しなくなった。

外交官時代、親しくしていた記者は100人以上、名刺を交換した記者は1000人を軽く超える。しかし、鈴木宗男バッシングが始まると、私を攻撃したり、検察庁に私を陥れるような情報を流したりする記者が何人も現れた。

結局、最後まで私との友情を大切にし、「あたかも何事もなかったがごとく」普通につき合った記者は共同通信、朝日新聞、産経新聞にそれぞれ一人いただけだ。この三人は私にとって大切な友人である。

ちなみに、私が職業作家となってから、当時は陰で私を攻撃していた記者たちが、「心の中では佐藤さんを応援していました」などと言って近寄ってくる。

「心の中で応援していたとしても、あなたは私を攻撃する記事を書いたのですから信用できませんね」と言い返したいところだが、そこは感情をグッと抑えて、「全然そうは見えませんでしたが、心の中で応援してくださったことには感謝します」と答えている。

もちろん、こういう記者たちと親しくつき合う気持ちにはならない。人生は短い。本当に信頼でき、充実した話ができる友人と残りの時間をすごしたい。

ロシア人やイスラエル人の世界では、友人という言葉の意味は重い。「私には、友人が100人います」と言うような人は信用されない。友人の基準が甘すぎるからだ。

友人とは、自分に不利益がもたらされても、状況によっては命の危険を覚えるようなことがあっても、自分を守ってくれる人のことだ。これが10人を超えることはない。

私には、イスラエルとロシアに本当の友人がいる。この人たちは、鈴木宗男疑惑のときもリスクを負って私を守ってくれた。このうちの何人かとは、おそらく今後の人生で会うこともないだろう。しかし、リアルなつき合いを通じてできた友情は、一生続くのである。

 

 
PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞