早めに準備を! 2024年の大学入試改革が「大変革」だと言える理由

大学入試

2020年、もっと話題になるはずだった出来事といえば何でしょう? まっさきに「東京オリンピック」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスの影響で、この日本にとっての一大イベントは翌年に延期、実施されましたが、実はもう一つ、本来であれば2020年にもっと大きく取り上げられるはずだった重大な出来事がありました。それが学習指導要領の改訂を合図に始まった日本の教育改革です。「21世紀型教育」について長年研究してきた石川一郎氏に、その詳しい内容についてうかがいました。

新しい学習指導要領が目指すものとは

小学校から大学におよぶ日本の教育“大”改革は、すでに始まっています。それがどれほど大きなものなのかは、いま進行している次の2つの大きな変化からもわかります。

まず、学校教育の方向性が変わりました。学校教育の方針を示す学習指導要領は、10年に1回のサイクルで改訂が行われます。2020年はその改訂年にあたり、まずは小学校から新カリキュラムがスタートしました。2021年には中学校でもスタートし、2022年からは高校で新しい教育が始まります。

新しい学習指導要領では、次の3つの資質・能力を育成し、未来を生きる子どもたちに「生きる力」を身につけさせることが教育の趣旨だとされています。

・実際の社会や生活の中で生きて働く「知識及び技能」
・未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力等」
・学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」

改訂前も「生きる力」を育むことが教育の柱になってはいましたが、新しい学習指導要領では、より実社会を意識した内容に変わっています。

その背景にあるのが、IT化やグローバル化などによる急速な社会変化です。このように変化が激しい社会では、目の前にある課題を解決したり、新しいアイデアを生み出したりといった「考える力」が、知識を得ること以上に必要になります。

また、グローバル化された社会で多様な人たちと共存していくには、相手に伝わる言葉で「表現する力」をつけることが重要だと考えられるようになりました。

「大学入学共通テスト」はセンター試験とどう違うのか

新しい教育では、これらの力が身につけられるようにカリキュラムの中身も教科書も一新されています。高校では教科自体と教科名も大きく変わります。たとえば、従来の「国語総合」が「現代の国語」と「言語文化」の2つの教科に分かれたり、「世界史A」と「日本史A」が「歴史総合」という1つの教科になっていたりするのです。

いずれもただ知識を覚えるのではなく、実社会とのつながりを意識しながら考えたり、伝えたりする授業に変わります。また、「総合的な探究」という新しい教科も誕生します。

しかし、いくら教科書や授業の中身を変えたところで、大学入試が変わらなければ、そのための勉強をせざるを得ません。そこで、今回の改革では大学入試の中身も変えることにしたのです。これは今までにない試みです。

2020年度から、「大学入試センター試験」に代わる「大学入学共通テスト」がスタートしました(試験の実施は2021年1月)。従来の知識重視型の入試から、「思考力」「判断力」「表現力」を問う内容に変わったのです。

しかし、当初予定していた英語の4技能(聞く、読む、話す、書く)評価と、国語と数学での記述式入試の導入については、採点の不透明さが指摘され土壇場で中止に。

こうしたことから、「教育改革といっても、実際は何も変わらなかったのでは?」と考えている方は少なくありません。

しかし、私は「非常に大きな変化があった」と判断しています。2020年度の入試は、新学習指導要領が導入されていないなかで実施されましたが、それでも従来のセンター試験には見られない形式の問題が出題されました。

2024年度の大学入試は、2022年から高校でスタートする新しい教育を3年間学んできた子どもたちが最初に受けることになります。

f:id:SOmaster:20211118132836j:plain

新学習指導要綱は、小学校と中学校でそれぞれ2020年、2021年から全面的に(全学年同時に)実施される。一方、高等学校については年次進行(2022年入学生から順次)での実施となる。つまり、2022年入学の高校生が受験する2024年度の大学入試から、この改訂の影響が本格化する

つまり、新しい教育内容が完全に反映された初めての入試になるということであり、これは教育界における“大改革”です。

今の時代の幸せの価値観は大きく変わっている

ところが、これほど大きな教育改革期を迎えているにもかかわらず、世の中ではあまりこのことが話題になっていません。一番の原因は、学校で先生たちが新型コロナウイルスの感染対策に追われていて、新しい教育にまで手が回らないことです。

学校では、まずは生徒たちを感染させないこと、学びを止めないことが最優先されており、ただでさえ過重労働が問題視されている教師たちの負担は重くなる一方です。そんな状況で、新しい教育が始まるといっても、正直なところ「それどころではない」というのが教師たちの本音でしょう。

また、新しい教科書にはこれからの社会に必要とされる「思考力」「判断力」「表現力」を伸ばすための工夫が見られますが、一方でこれまでと同様に教えるべき知識もあります。そうなると、まずは知識を教えることが優先されてしまい、本来重視すべき力を伸ばすのが後回しになってしまうのではないかという懸念もあります。

では、やはり日本の教育は変わらないのでしょうか?

私立学校で校長を務めたり、カリキュラムマネージャーをしたりして「21世紀型教育」を研究しているという私の仕事柄、学校関係者とお会いする機会が多く、そのときによく聞かれるのが「2024年の入試はどう変わるのですか?」「本当に変わるのでしょうか?」という質問です。

明確に答えられればいいのですが、正直なところ私にも見極めきれない部分があります。文部科学省が描いた設計図通りなら2024年度の入試は大きく変わるでしょうし、現場の教師たちの混乱ぶりを見ると、絵に描いた餅でしかないようにも思えます。

だからといって、私たちは今回の教育改革について無関心であってはいけません。なぜなら、私たちが暮らす社会は確実に変化しているからです。

「人生100年時代」といわれる今、長い人生をどのように生きるかが問われています。この本の読者であるみなさんが子どもだったころは、学歴が非常に重視されていました。よい大学へ入ればよい企業に就職でき、人生の幸せが保証されている時代だったのです。

でも今は、AIの登場で仕事がなくなったり、人間がやるべき仕事の内容が変わってきたりしています。そのようないまだかつて経験したことのない社会では、学歴より「自分は何が好きで、何が得意で、何ができるか」が問われるようになります。つまり、個人の力が求められる時代になるのです。

わが子には幸せな人生を歩んでほしい。親ならみんなそう願っていることでしょう。しかし、親世代が考える幸せの価値観と、今の時代の幸せの価値観は大きく変わっています。お子さんがこれから生きる社会では変化がさらに加速していくため、もはや将来像を想像することすら難しくなっています。

そんな未知の社会で生きるために必要な力を育てるのが新しい教育であり、大学入試改革なのです。わが子の幸せを望むのであれば、まずは親御さん自身が今、日本が目指そうとしている教育の中身を知っておくことが重要です。

18歳の子どもが挑む大学入試には、親はあまり関わることはありません。でも、世の中のさまざまなことに関心を持たせたり、考える習慣を身につけさせたりするのは家庭の役割でもあるのです。

 

PROFILE
石川一郎

「聖ドミニコ学園」カリキュラムマネージャー、経済産業省「未来の教室」教育コーチ、知窓学舎ミドルアウトマネージャー。専修大学北上高等学校理事。「21世紀型教育機構」理事。1962年東京都出身、暁星学園に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。元かえつ有明中・高等学校校長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社)、『2020年からの新しい学力』(SBクリエイティブ)などがある。