混んでるエレベーターで“階数表示”を見つめてしまう心理学的理由

人のしぐさや態度、行動など、目に見える客観的な事実を通して人間心理の謎を探究するのが「行動心理学」という学問。認知行動科学を軸として人材開発、コーチング、マーケティング等の研究とコンサル研修に取り組んでいる匠 英一氏は、行動心理学がわかると他者の態度の裏にある理由や意味がわかると言います。

他人が近づくと不快に感じる距離がある

エレベーターという小さな空間に見知らぬ人同士が乗っているとき、全員の顔が斜め上を向いているという光景に出くわすことがある。

扉の上にある階数表示板を見つめているのだが、だからといって、それほど階数を気にしているわけではない。

これは、何かに集中することで心のバランスを保とうとしているときのポーズなのだ。これを行動心理学では「親密性の平衡モデル」と言う。

人には「パーソナルスペース」という“縄張り”のようなものを各自持っており、その空間にむやみに見知らぬ人が入ってくると落ち着かなくなる。

パーソナルスペースの広さは人によって異なるが、一般的に自分を中心とした半径1.2メートル以内の「個人距離」の内側に親しい友人や家族以外の人が入ってくると不快に感じる。

説明図

しかたがないとはいえ、エレベーターに大勢の他人と乗れば、パーソナルスペースは侵害されてしまう。そこで本来の心理的なバランスを保つために、一点を見つめてしばしの不快感をやり過ごしているのだ。

見知らぬ人同士が互いのパーソナルスペースを侵害していて、距離感と親密性のバランスが崩れている。そのため一点を見つめて“気配”を消し、この場を切り抜けようとしている。

電車で端の席に座りたがる人が恐れていること

もう一つ、よく見かける行動の裏に隠れている心理について解説しよう。

窓を背にして座るロングシートの電車に乗っていると、すでに席を確保しているにもかかわらず、端っこの席が空くとさっとそこに移動する人がいる。

じつは、電車の両端の席に人が座りたがるのにはワケがある。それは、その人の「パーソナルスペース欲求」が働いているせいだと考えられる。

今では環境が変わり、地球上の生物界の頂点に立った人間だが、大昔は肉食獣に捕食される存在だった。そのため、生きていくには周囲に危険が近づいていないか常に気を配っておく必要があった。

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四方八方、いつ、どこから襲われるかわからないような無防備な状態よりも、少しでも安心のあるパーソナルな空間をつくろうとするのだ。 

そんな自分を守りたい気持ちが、電車の端の席を好むという行動にも表れているのだ。もちろん、身の危険を感じながら電車に乗っている人はそうそういないだろうが、たしかに自分の体が手すり側の面と背面の2面に囲まれていると安心感がある。

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人間のDNAは太古の恐怖心を未だに忘れられないのかもしれない。

 

PROFILE
匠 英一

1和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。学生時代から学びの楽しさをコンセプトにした塾経営、東進スクール研究所の顧問やデジタル教材の監修・企画をし、90年に日本初の認知科学専門のコンサル会社(株)認知科学研究所を創設。心と行動・脳を統合する「認知行動科学」を軸として、人材開発、コーチング、マーケティング等の研究とコンサル研修に取り組んでいる。経営心理コンサルタントとして大手メーカーのコンサルや業界団体(15件)を自ら企画創設するなど実績多数。現在はデジタルハリウッド大学教授、学び&遊びを育てる会代表、また日本ビジネス心理学会副会長としてビジネス心理検定の資格普及に取り組んでいる。『ビジネス心理学』(経団連出版)、『男心・女心の本音がわかる 恋愛心理学』(ナツメ社)、『1日1分! 目からウロコの勉強法』(青春出版社)ほか著書多数。“しぐさ分析の専門家"としてTV出演も数多い。