放置自転車ゼロに! “やらされ感”なしで人を動かす驚きのアイデア

人のしぐさや態度、行動など、目に見える客観的な事実を通して人間心理の謎を探究するのが「行動心理学」という学問。認知行動科学を軸として人材開発、コーチング、マーケティング等の研究とコンサル研修に取り組んでいる匠 英一氏は、行動心理学がわかると他者の態度の裏にある理由や意味がわかると言います。

結局、強制よりも、 そっと押したほうが人は動く

新型コロナウイルスのパンデミックは、新しい生活様式 を定着させた。外に出る際はマスクを着用する、レジに並ぶときは前の人との間隔を空ける、店や施設に入る前に手指をアルコール消毒するなどだ。

しかし、新しいルールを一人ひとりに徹底させるのは簡単なことではない。いちいち「間隔を空けてお並びください」とか「消毒をしてください」などと言われるのもうるさいし、言うほうにしても角が立って面倒である。

だが、人間の深層心理を理解していれば、そんな面倒な声かけなどしなくてもよくなる。それが、2017年にノーベル経済学賞を受賞した「ナッジ理論」だ。

ナッジとは「そっとヒジで突く」という意味の英語だが、そっと突かれた人間は、突いた人の思い通りの行動をするようになるのだ。

説明図

たとえば、レジから少し離れたところに足型のシールが貼ってあり、そこからレジに向かって矢印が描かれていたら、そのシールに従って人は並び、レジに進む。

また、1メートル間隔で床に足型シールが貼ってあったら、ほとんどの客はシールの場所に立って並ぶ。わざわざ貼り紙をしたり、大声で案内することはないのだ。

説明図

このように強制されなくても、個人が自発的に行動するよう人間心理に働きかけることができるのが、ナッジ理論の特徴だ。

「ペットのフンはお持ち帰りください」や「飲食禁止」などと、やたらと看板や貼り紙が多い日本だが、アイデアしだいでは景観を台無しにする看板を取り払うことができるのだ。

黙っていても「×」印を避けて座る

話を冒頭に戻すと、新型コロナウイルス対策でもこのナッジ理論は随所で活用されている。

たとえば、役所や銀行、病院、飲食店などで、イスやソファに間隔を空けて「×」印の紙やぬいぐるみなどが置いてあるのを見かけ たことはないだろうか。

来店者はこれを見て“無印”の席に座るのだが、これは密接対策 の取り組みの一環である。

また、京都府宇治市の「イエローテープ作 戦」では、来庁者が庁舎の入り口に置いた消毒用アルコールに気づきやすいように、床に矢印のテープを貼ったところ、利用者が1割ほど増したという。 

このアイデアは今では全国の自治体に普及しており、市民の消毒意識が高まったことはいうまでもない。

ナッジ理論の応用例はこれだけではない。 下にあるように私たちの生活の中 に違和感なくすっきりと溶け込んでいる。

説明図

社会性があり、シンプルなメッセージで伝えられ、面倒や手間を省いてある。これがナッジ理論の最大の特徴でもある。

 

PROFILE
匠 英一

1和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。学生時代から学びの楽しさをコンセプトにした塾経営、東進スクール研究所の顧問やデジタル教材の監修・企画をし、90年に日本初の認知科学専門のコンサル会社(株)認知科学研究所を創設。心と行動・脳を統合する「認知行動科学」を軸として、人材開発、コーチング、マーケティング等の研究とコンサル研修に取り組んでいる。経営心理コンサルタントとして大手メーカーのコンサルや業界団体(15件)を自ら企画創設するなど実績多数。現在はデジタルハリウッド大学教授、学び&遊びを育てる会代表、また日本ビジネス心理学会副会長としてビジネス心理検定の資格普及に取り組んでいる。『ビジネス心理学』(経団連出版)、『男心・女心の本音がわかる 恋愛心理学』(ナツメ社)、『1日1分! 目からウロコの勉強法』(青春出版社)ほか著書多数。“しぐさ分析の専門家"としてTV出演も数多い。