雑談を盛り上げるには「敬語をくずす」タイミングが重要だった

雑談

「相手に失礼のないように」と考えると、どうしても敬語ばかりになって会話が堅苦しくなりがち。対面でもオンラインでも、相手との距離を縮めるポイントは「敬語をどこでくずすか」だったのです。会話の相手といい関係を築く秘訣を、コミュニケーションコンサルタント・藤田尚弓さんに教えてもらいました。

“できる人”ほど雑談を大切にしている

仕事とは関係のない雑談をしておくこと、お互いに親近感を持っておくことは、仕事をする上で有利に働くことが少なくありません。ビジネスの現場で、人間関係の構築は大きなテーマです。

その中でも結果に影響を与える要素に「雑談力」があります。いわゆる会話がうまい人たちの中には様々なタイプの人がいますが、共通することの一つは、話題をオン(ビジネストーク)からオフ(雑談などプライベートの会話)にスイッチさせるスキルです。

営業成績の良い人の会話記録を分析してわかったのが、「良好な関係を築くのがうまい人たちは、そうでない人たちに比べて、お客様と個人的な話をする回数が多い」ということでした。

また、管理職研修のための調査をしたときにも、「管理職としての評価が高い人ほど、雑談を大切にしている」という傾向が見られました。皆さんの仕事相手を何人か思い出してみてください。ちょっとしたミスがあっても許せる人もいれば、些細なミスでもカチンときてしまう人もいるのではないでしょうか。

このように対応が分かれるのは、日頃の関係性による部分が少なくありません。取引先やお客様と、雑談を通じてほんの少しプライベートな話をして、お互いの距離を縮めておくことは、ビジネスマンにとって「トラブルを少なくするための予防線」にもなるのです。

交渉でも、本題に入る前に雑談をしたグループと、雑談なしで交渉を始めたグループでは、前者のほうが譲歩を引き出しやすく、いい交渉になりやすいと言われています。

「自分の仕事には雑談なんて関係ない」と思う人もいるかもしれませんが、人間が感情の生き物である以上、どんな職種であっても雑談ができることは、仕事や人間関係において様々な面で強みになるのです。

敬語が「オン・オフ」のスイッチになる

ただし、雑談といっても、天気の話や食べ物の話をすればいいわけではありません。いくら話題を用意しても、上手に雑談に移行できない人は要注意です。仕事モードの人に雑談をしてもらうには、オフィシャルな会話のときとは違った、話しやすい雰囲気を作ることが必要です。

筆者は大学の公開講座で「コミュニケーション心理学」と「交渉」を受け持っており、講義の中で、雑談が相手の譲歩にどう影響するかという体験ゲームをしています。

10年以上、学生と社会人にゲームをやってもらってきたのですが、雑談をすればいい結果になるかというと、そうではありませんでした。雑談をしたにもかかわらず、雑談なしのグループと譲歩に差が出なかったチームも少なくなかったのです。

雑談がいい方向に働いたチームとそうでないチームの違いは、「雑談のスムーズさ」「雑談の盛り上がり方」であり、これらに影響を与えていることの一つが「敬語のくずし方」でした。

オンからオフへ話題を変えるとき、またオンに戻すときなど、会話がシフトするときには敬語も変化します。初対面の相手と敬語で丁寧に挨拶をした後、雑談をしたいとき。また、仕事の話からプライベートの話をして和やかな雰囲気に変えたいとき。

敬語をくずしたり、丁寧にしたりという、オンオフの調整機能を使えるようになると想像以上のメリットを得ることができます。

「ひとり言」を意図的に聞かせるワザ

では、ビジネスの場面で実際にどう敬語をくずしていけばよいのでしょうか。

たとえば、仕事上の付き合いではあるけれど、やりとりが増え、少し距離が縮まってきたとき。フランクに話すにはまだ早い段階だけれど、親しくなるつもりがあるという意思表示をしたいとき。

そんな場合には、最初のステップとして、失礼にならない方法を使い、会話の雰囲気だけを和らげることから始めるのがいいでしょう。

ポイントは、チャンスを見つけて、会話の中にひとり言を入れ込むこと。このひとり言の部分だけ、敬語ではなく普通体(タメ口)にするのです。カジュアルな言い回しが入ることで、雰囲気をゆるめることができます。相手に向けて話す部分は敬語、カジュアルな部分は自分に向けたひとり言になりますので、大事な相手にも失礼にならない話し方です。例を見てみましょう。

(例)ひとり言を交ぜた会話
「本当に美味しい店なんです。“なんて名前の店だったかな……”。調べて後でメールします」

「そのリュックは、○○の新作ですか。“俺も買っちゃおうかな”。使いやすさはどうですか?」

ひとり言の部分をやや低めの小さな声で話すと、相手への発言でないことがよりわかりやすくなります。ひとり言部分で視線を外すというテクニックも、「あなたに向けての発言ではありません」ということを明確にしてくれるので試してみてください。

会話にカジュアルさをプラスしようとすると「なれなれしい」「生意気」などと感じられてしまうことがあります。しかし、この方法であれば相手には丁寧な話し方のままなので失礼なく会話の雰囲気を和ませることができます。相手に「この人とは話せそうだ」と思ってもらいやすくなる効果もあります。

“タメ口”に移行する3つの「引用」ワザ

ひとり言で雰囲気を和らげることができたら「引用部分をタメ口にする」というテクニックも使ってみましょう。丁寧な話し方のまま、くだけた雰囲気をプラスしていく3種類の引用をご紹介します。

1つめは「他の人が話した内容」の引用です。

(例)

「同窓会で田中先生に『おまえら、もういい加減にしろ!』って怒鳴られた話が出たのですが、田中先生はあんなに怒ったのを忘れていたみたいで」

引用も先ほどご紹介したひとり言と同様、目の前の相手に対して発話されたものではないので、失礼になりません。他人が話したことだけでなく、自分の発言を引用するのもOKです。

これが2つめの引用です。(例)「そのとき一緒にいたはずの親友も覚えていなかったので『えっ、みんな覚えてないの?もしかして覚えてるのは私だけ?』って思わず聞いてしまいました」

自分の発言でも、過去に言ったことの再現であれば敬語でなくても失礼にならないのがおわかりいただけたと思います。「自分の発言の引用」は、このあと本格的に敬語をくずしていく段階の準備運動にもなるので、特に意識してやっておくとよいでしょう。

3つめの引用は「過去の感情を説明する引用」です。

(例)

「正直、あの頃は空手が嫌になっていて『本当につらい。次の試合が終わったら絶対やめたい』って、いつも思っていたんです。タイミングを逃しているうちに、優勝してしまったというのが本当のところでして」

この段階では、相手に伝わる程度に会話が和みますが、まだ相手に対する話し方はくずしていないので、ほとんどの関係性の人に使えます。紹介した3つの引用の中でも「自分の発言の引用」を十分にやっておくと、この先、スムーズに敬語をくずしやすくなります。

「この人とは親しくなれそうだろうか」と探っているのは相手も同じです。積極的に使って、安心してもらうのがお勧めです。

 

PROFILE
藤田尚弓

コミュニケーションコンサルタント、企業と顧客をつなぐコミュニケーション媒体を制作する株式会社アップウェブ代表取締役。全国初の防犯専従職として警察署に勤務し、防犯関連のコミュニケーションデザインを担当。その後、銀座のクラブ、民間企業を経て、現在に至る。異色の経歴にもとづく硬軟織り交ぜたコミュニケーションの専門家として、企業研修や執筆、TVコメンテーターなど幅広く活動している。早稲田大学オープンカレッジ講師、All About 話し方・伝え方ガイド。日本社会心理学会、日本応用心理学会所属。